第7話 烏森神社のお祭り
チョコバナナ、金魚すくい、ポテトフライ、真っ赤な提灯、たくさんの人のはしゃぐ声・・・・
緑の葉っぱとかわいい鳥の描かれた浴衣を着たわたしの横には赤い小花柄の浴衣を着たヨッシーがいる。
わたしたちは誰がどう見ても友達とお祭りに来たただの小学生だろう。しかし、実際は風船事件のなぞ解明のために潜入している調査員だ。
昨日の『居残り』での作戦会議でわたしとヨッシーが犯人をおびき寄せるためのおとりに決まった。そしてそれをダイチくん、アオイさん、モモタ、ギンタがサポートしてくれる。
今日は16時に塾が終わってからわたしとヨッシーはそれぞれ家で浴衣の着付けをしてもらうために帰ったが、他の4人はなにやらせっせと準備していた。ヨッシーと合流してからは4人の姿は見ていないがこの祭り会場の中にいることは確かである。
少し緊張した面持ちのヨッシーにわたしは小声でがんばろうね!と声をかける。ここからは2人で力を合わせて犯人をおびき寄せないといけない。
「あ!ヨッシー、チョコバナナがあるよ!」わたしはむじゃきな声を上げる。
ヨッシーは一瞬戸惑ったが、どういうことか分かったようですぐに笑顔を浮かべた。
「ほんとだね!でもかき氷もいいなあ!」
なるべく自然な小学生を演じる。
「迷っちゃうなあ。あっあそこで風船配ってるよ!」
「ほんとだ!行ってみよう!」
風船は商店街の人たちが配っているようだった。だから中には知った顔がいっぱいだった。散髪屋さんのおじさん、八百屋のおばちゃん、金物屋のおじいちゃん…みんなおそろいのはっぴを着ている。
わたしたちが近づいてくと、駄菓子屋のおじさんがそれに気づいて、「2人とも浴衣がよく似合ってるね!風船、何色にするかい?」と言った。おじさんはいつもちょっと煙草くさいけどとっても優しい。わたしたちは即答で「みどり!」「赤!」と答えた。
浴衣の色とお揃いの風船をもらってお礼をいうと、わたしたちは再び祭りに紛れ込んで犯人が来るのを待つ。
今は17時45分をまわったところだ。人は多いが横を通る人の顔が見えないわけではない。自分の風船に注目していれば、横で何かされればすぐにわかるだろう。
風船に注意しながらお祭りを回っていると、小さい頃のことを思い出した。
あれは小学校1年生の時のこと、わたしたち2人は今と同じように浴衣を着せてもらいこのお祭りに来ていた。そして同じように地域のおじさんに風船をもらった。自分の身長よりもずっと上をぷかぷか浮いている緑の風船がかわいくてかわいくて思わず引き寄せてぎゅっとしてしまった。
すると、風船はパンっと大きな音を立てて割れてしまったのだ。わたしはびっくりするやら悲しいやらで涙があふれ出てまるで赤ちゃんのように泣いてしまった。
そしたらヨッシーが「よしよし。」といいながら、わたしの残ったひもと自分の風船のひもをむすんでくれたのだ。わたしがひもを持ってみると、2人のもったひもは同じ赤い風船につながっていてそれがぷかぷかと浮いていた。ヨッシーは「半分こ。」と言った後に「なんかわたしたち、さくらんぼみたいだね。」といって笑っていた。いつの間にかわたしの涙は止まっていて、ヨッシーと一緒になっていつまでもいつまでも笑っていた。
風船を見ていると、そのときのあったかくて優しい気持ちが胸によみがえってくるようだった。わたしが思わず、ヨッシーにありがと。というと、ヨッシーはなんのことかわからず首をかしげていた。
たった1つの風船だけど、そこには1人1人のいろんな思いがつまっている。それを勝手に飛ばしてしまうなんて許せない。
わたしは風船を握る手に力を込めた。
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