第4話 プリントの答え

「居残り」のために16時まで待っていると、その頃には塾に残っているのは私とヨッシー、ダイチくんとアオイさん、あと2人の小学生だけだった。


私が、居残りって、とダイチくんに聞こうと駆け寄ると、

ダイチくんはその横をすり抜けて戸締りをし出した。よく見るとアオイさんも机の下をのぞき込んで、他に誰かいないか確認しているようだった。


ヨッシーやあとの小学生はなにやら小さな手帳みたいなのを持ってきて、メモを取る準備をしている。


今から何が起きるんだ?そう思っていると、全部の確認を終えたらしいダイチくんとアオイさんが戻ってきて、みんなで輪を作るような形で座るように促す。


みんなが座ると、ダイチくんが口を開く。

「今日は、新入りを発表する。フタバだ。」


みんなの目がぎろりとこちらを向く。

新入り?どういうことだろう


パニックになっている私をよそに、アオイさんがダイチくんにいう。

「なんでフタバっちを新入りにしようと思ったん?あんまりピンと来おへんねんけど?」うん。なんかちょっとバカにされている?


すると、ダイチくんが「フタバ、今日渡したプリントを覚えているか?」と言い、今日来てすぐに解かされたプリントをみんなの前に出し、「フタバ、この問題をみんなに説明しろ。」と言った。


なんかダイチくんいつもとキャラが全然違う。なんかいつもは癒し系って感じなのに、今はワイルドって感じ。


「おい、フタバ!早くしろ!」


ひーっ、ワイルドなんてもんじゃない。俺様ってやつ!?

わたしは慌ててみんなの方を向き直り、問題の説明を始めた。


「えーっと、このプリントには『矢と田の真ん中あなほれワンワン。底についたら右2歩進め。宝石取ったら左に3歩。宝石取ったらがっちゃんこ。できた宝はなんじゃろな。』って書いてあります。」


そこまで言うと、2人の男の子たちが

「何それ、宝の地図!?」「この辺に田んぼはともかく矢なんてあるか?」「てか、シャベル取り行こうぜ!」「俺が先に行く!」と立ち上がり騒ぎ始めた。


わたしは慌てて

「いやいや違うの!矢と田は、本物の矢と田んぼじゃなくてひらがなの(や)と(た)のことなの!」と言って座るように促した。

「ひらがなの50音表ってあるよね。1年生のときに勉強した、縦にあいうえおって並んでて、その隣にかきくけこ、さしすせそって順番にならんでいくやつ。」


2人は同時にうなずく。その様子を見ているとなんだか2人が似ていることに気づく。


「50音表で(や)と(た)を見てみるの。1段目にあるよね。その間には(や)(ま)(は)(な)(た)が並んでる。つまり『真ん中』っていうのは(や)と(た)の真ん中の文字のことなの。真ん中の文字は(は)だから…」


「なるほど!だから『あなほれ』っていうのは下にいくってことか!」ぼうしをかぶっている方の男の子が叫ぶ。


「そう。(は)から下にほっていくってこと。(は)の下を見ていくと(ひ)(ふ)(へ)(ほ)が続いているよね。だから、『底についたら』の『底』は(ほ)のことなの。」


「ほーぅ。」ダイチくんがダジャレをいうが誰も笑わない。


しんとした空気の中、気を取り直して口を開く。

「だから次の『右2歩進め」っていうのは、(ほ)から右に2つ、(の)を超えて(と)に行きます。この(と)が一つ目の宝です。そしてまた『左に3歩』なのでさっきと反対に(の)(ほ)(も)と3つ進んで(も)が2つ目の宝です。そしてそれを『がっちゃんこ』なので宝は「とも」になります!」


そう言い切るとダイチくんが

「フタバはこれを机に出したアイスがカチカチの間に解いたんだ。1分もかかっていないだろう。すごいひらめき力だ。…まあなんで解答らんにヨッシーと書いたのかはなぞだがな。」とぎろりとこちらを見て言った。


「だって、わたしの「とも」はヨッシーだからです!」


 みんながあきれ顔をする中アオイさんだけがお腹を抱えて笑っている。

「なるほど、「とも」でヨッシーか!こりゃ傑作や!まあいいわ!勉強はあんまできひんようやけど、ひらめき力はぴか一や。新入りとして認めたる!」

 それをみて男の子たち2人もうんうんとうなずく。


よくわからないが、なんとか認められたらしい。


安心してヨッシーの方を見ると、手を叩きながら感激の涙を流していた。いやいや参観日のお母さんか・・・。






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