入社試験

第2話 わたしが塾に行く2つの理由

夏休み5日目。だいぶ慣れてきた道を歩き塾に向かう。


週に何度か、と言われていた塾にわたしは結局毎日通わされていた。


今日から8月に入り、太陽もいよいよ本気を出しているようだ。ジリジリと焼き付ける日差しにかばんがドンドン重くなっていく。


塾が目の前に見えるころには汗びっしょりになっていた。


塾は古い木造で毎年お盆に泊まりに行くおばあちゃんちにそっくりだ。

ガラガラガラと扉を開けると、

「あっふたばちゃん!」とヨッシーの声が響いた。


実はヨッシーは春からこの塾に通っていたらしいのだ。そんなこと全然聞いたことなかったのがちょっとさみしかったが、それでも塾でヨッシーに会えることはとっても嬉しく、それが文句も言わずにこうして塾に通っている理由の1つだ。


もう一つは…

「こんにちは、ふたばさん。よく来たね。」


「こ、こんにちは!」

一気に心臓がどきどきと音を立てる。


わたしに優しい笑顔を向けているのは大学生のダイチくんだ。ダイチくんはわたしの真っ赤な顔を見て、それが暑さによるものだと思ったらしく、

「大丈夫?来るとき暑かったのかな、無理せずに少し休憩するかい?」


わたしはさらに顔を真っ赤にして、大丈夫です!と首を横に振ることしかできなかった。


整った顔に優しい笑顔、大人っぽい雰囲気は同級生の男子とは全然ちがう。ダイチくんに会うことが、塾に行く2つ目の理由だ。


空いている机に座り、時計を見る。14時を少し過ぎたあたりだった。


塾は夏休みは11時に開き、16時までやっている。その間、小学生たちは自由な時間に来て勉強し、自由に帰っていく。


16時まで勉強してから帰って来なさいとお母さんに言われているので、まだ2時間も勉強しないといけない。


帰っていく一人一人に「気をつけて帰ってね。」「また来てね。」というダイチくんの声を聞きながらしぶしぶ教科書を開く。


鉛筆を動かしているとノートにふわりと黒い影がかかった。手を止めて顔を上げるとアオイさんがにっこりとこちらをのぞき込んでいた。


「ふたばっち、毎日来とってえらいなあ!ほんますごいで!もう100点あげるわ!」


アオイさんはショートカットの似合うすらりとした女の人だ。そのきりっとした目から初めはクールな人だと思ったけど、話してみるとすごく元気な人だった。ヨッシーから聞いた話だと、アオイさんは今はこっちの大学に来る前は関西に住んでいたらしい。


ていうか、本当は算数の問題を解いていたんじゃなく、落書きしてただけなんだけどアオイさんに見られてなくてよかった。ほっとしたのもつかの間、アオイさんはニヤリとこう言った。


「まあ勉強してたら120点やけどな。」


ば、ばれてた・・・。









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