居残り秘密結社!?

秋野清瑞

第1話 テスト最悪・・・

 両手をばちっと合わせぐいっと目をつむる。

『どうか、80点…!いや70点以上でありますように!』


 今日は夏休み最後の登校日。机の上には返ってきたテストが裏返しで置いてある。


 正直、そんなにできた感じはしなかったが、わたしの夏休みの運命はこの点数にかかっている。どうか神様…。息をのんで裏返した。


 これは…。うそだ、そんなはずはないと何度も目を開けたり閉じたりして確認してみる。


 しかし、何度見たところで、少しぐにょっとなった『5年2組 鳥井 双葉』の名前の横には、赤々とした29の数字は変わらない。


 そのとき、「フタバちゃんどうだったー?」とヨッシーがひょこっと現れた。


「ヨッシー!わたし、絶対お母さんに怒られるよ…。夏休みは勉強漬けだ!っとかって言われそう勉。ヨッシーはどうだった?」


「うーん。まあまあよかったかな…?」


 ヨッシーはきっとわたしに気をつかってそう答えたんだろうが、ヨッシーの手に持っているテストは男子が横を駆け抜けていった風にあおられて、大きな100点をひらりひらりとさせながらわたしたちの真ん中に落ちた。


「ね!それより明日からの夏休み、何して遊ぼっか??」少しの沈黙のあと、ヨッシーが気を取り直したように笑顔を見せた。


 ヨッシーの本名は吉田あかね。苗字の吉と頭がよいということでヨッシーと呼ばれている。私とは保育園からの幼馴染で小さい頃からよく泣くわたしをよしよしと優しくなでてくれる。男子はその様子をみて「ヨッシーがよしよししてるー!」とか「フタバは赤ちゃん!ばぶー」などと言ってくるが、私はこのヨッシーの優しいよしよしが大好きなのだ。


 まだ落ち込んで肩を落とすわたしをみて、ヨッシーはいつものようによしよしと頭を撫でた。

「きっと大丈夫だよ。」


 なんだか、気持ちも落ち着いてきた。そうだ。テストなんてどうでもいい。明日から夏休みなのだ。プールに行って、スイカを食べて、虫取りをして…わたしの頭の中ではキラキラした夏休みの計画が広がっていた。


**********


「だめです!」

お母さんの起こった声がキーンと響く。


「こんな点数じゃ夏休みは迎えられませんよ!プールだスイカだ虫取りだって言ってる場合じゃないでしょ!もう夏休みは毎日家で勉強なさい!」


 かなり怒っている…。まあ過去最低点数をたたき出したわたしが悪いのかもしれないが、わたしだってキラキラの夏休みはゆずれない。

「でも、子どもは遊ぶことが仕事だっていうじゃん!」


お母さんの目が吊り上がる。

「勉強することが子どもの仕事です!!」

「毎日勉強なんて絶対いやだ!」

「勉強!」

「いやだ!」

 

 にらみ合うわたしとお母さんの耳に、ただいま~という気の抜けた声が聞こえてきた。

「っとおいおい、何2人ともそんな怖い顔してるんだよ?」


 するとお母さんがテストを右手にひらひらさせながら、夏休みを台無しにする計画を話す。

 

「なるほどなあ。でもさすがに毎日勉強じゃあなあ。」

 お父さんは腕を組み考えた後、何かをひらめいたように手をポンと叩いた。


「そうだ!前にお父さんも行っていた塾があるんだが、週に何回かそこに行かないか?」


「えー、塾?!」


 予想外の展開だ。するとお母さんも

「でも塾はお金とか結構かかるんじゃない?」と眉間にしわをよせる。


「いや、あそこは大学生のスタッフがボランティアでやってて、この街の子ども達だったら無料だったはずだよ。」


 無料という言葉にお母さんが反応する。

「いいわね!そこにしましょうよ。たしかに毎日家で勉強じゃつまらないものね!」さっきと言っていたことが違う。しかし、もう取り返しがつかないことはわかっている。お母さんの三大好きなものは韓流アイドル、ビール、無料なのだ。


 たしかに家で毎日勉強よりはましだけど、塾かあ、嫌だなあ。そんなことを思っていると、お父さんがふくれっつらの私を見つめ微笑んだ。


「実はお父さんも子どもの頃その塾に行っていたんだ。大丈夫。きっとおもしろい夏休みになるよ。」


…お父さんには悪いけど「おもしろい夏休み」と「塾」が全く結びつかない。お父さんってそんなに子供の頃勉強好きだったんだろうか。もしそうだったとしてもその遺伝子はわたしには全く受け継がれていない。


 「早速明日から行くことになったからねー!」と向こうからお母さんの声が聞こえた。早速電話をかけていたらしい。まさか夏休み初日から塾かあ。散々な夏休みになりそうだなあと思い肩を落とすわたしにお父さんは再びにこっと微笑むだけだった。



 

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