第5話 秘密結社MAM

 私はずっと気になっていたことを口に出す。 

「あの、さっきから新入り新入りって何の新入りなんですか?」


「説明していなかったな。俺たちは秘密結社MAMだ。」


「えむえーえむ…?」


「そうだ。街の、安全を、守る、の頭文字を取ってMAMだ。」

 ダイチくんが誇らしげに胸を張る。


「なんでそれでえむえーえむなんですか?ま、あ、もじゃないんですか?」

 私が言うと、またアオイさんがお腹を抱えて笑い出した。


「傑作やな!頭文字っていうのは、ローマ字にしたときのアルファベットのや。学校で習ったやろ?それで、街の、安全を、守るをローマ字にしてみ?」


 あー…習った気がするけど覚えていない。なんだったけな??

 困っている私を見て、隣に座るヨッシーが

「街の、はMATINO、安全を、はANZENWO、守る、はMAMORUだよ。」とこそっと教えてくれたが、狭いこの空間では全部丸聞こえだった。


「ひらめき力はピカイチなんやけどなあ。まあええわ。それで、それぞれの頭文字を取るとMAMや。ダサいやろ?」


 それを聞いたダイチくんがアオイさんを睨む。

「ダサいとはなんだ。30年間代々受け継がれている秘密結社だぞ。俺たちのおかげで街の平和が保たれているんだ。」


「ダサいもんはダサいやろ。」


 言い合う2人に構わずわたしは問いかける。


「あの、街を守るとか、平和とかって何なんですか。」


「街の困ったことを僕らが解決するんだよ!」「つまり、僕ら最強!!」

 答えたのは男の子たち2人だった。二人はハイタッチを決めている。


「まあ、そういうことなんだ。俺らのボスは警察内にいて、たくさんの事件を受け持っているんだが、中には警察が動くには小さすぎる事件や大人では調査しにくい事件がたくさんあるんだそうだ。そういった事件を俺たちは解決していくってわけだ。」


「小さい事件っていっても、困っている人はたくさんおるし、それが大きな事件につながたりするから、結構大事な仕事なんよ。まあ仕事っていっても結局ボランティアで無償なんやけどな。」


「そしてMAMは代々、塾に通う生徒の中で特に優れた才能を持っている生徒をスカウトし仲間に入れている。けど、他にも塾が増えたこともあって生徒数が減り、才能を持った仲間も減ってるんだがな・・・。」

 ダイチくんが苦い顔をする。


「あの、ってことはヨッシーやこの2人の男の子も秘密結社MAMの一員ってことですか?」


「ああ、そうだ。紹介していなかったな。3人とも俺がスカウトして1年くらい前から一緒に活動している。ヨッシーは、知ってるな。2人は双子のモモタとギンタだ。帽子をかぶっている方がギンタな。」


「よろしく。」「よろしくな!」2人が口々に言う。


「で、こっちがアオイ。アオイは大学で工学を専攻していて機械やプログラムに強いんだ。その噂を聞いて、塾の生徒ではないんだが俺がスカウトしたんだ。塾の出入りを不審に思われないように塾のスタッフもやってもらっている。」


「ほんま駅の近くの塾なら1時間1500円ももらえんのにボランティアで勉強教えるなてやってられへんで。」

 そういうアオイさんだが、その顔はなんだかうれしそうだ。


 いきなりダイチくんが姿勢を正し、こちらに向き直った。

「というわけで、フタバ。君も今日から秘密結社MAMの一員だ。君が一員であることやこの組織の存在は決して誰にも言ってはいけないぞ。共に街の安全を守るんだ!!」


 熱くなっているダイチくんには悪いがまだよく事情がのみこめていない。

 ダイチくんがわたしのひらめきの才能を認めてスカウトしてくれたのは嬉しいけどプリントの問題はまぐれかもしれないし、本当にやっていけるのかわからない。それにヨッシーやモモタとギンタの才能ってなんなんだろう。


 閉じられた窓の外から蝉の音がかすかに聞こえていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る