第20話 猫どろぼう事件の犯人は…

 わたしが商店街に向かうと、クロスケを拾ったシャッターの前でみんなが集合していた。


 ダイチくんはちゃんとスーツを着てきている。とても暑そうだが、しょうがない。


 ヨッシーは今日も白い猫を連れてきている。白い猫はヨッシーに抱かれとても気持ちよさそうだ。


「フタバっち、もうみんな集まってんで。はよ犯人おしえてや。」

 アオイさんが待ちきれない様子でこちらをみる。


「わかりました。でもその前に確認しておきたいことがあるんです。ヨッシーその白い猫はクロスケなんだよね?」


 わたしがそういうと、ヨッシーは「うん!」と満面の笑みでこちらを見返してきた。


「その猫は白じゃん!」「クロスケは黒なんだろ?」「そうだよな。」「うん。」

 モモタとギンタが顔を見合わせている。


「そう、色は違うけどこの子はクロスケなの。わたしの記憶のクロスケと耳も鼻も口も全部一緒。このきれいな目の緑色もクロスケの特徴なの。」

 ヨッシーは目を閉じたり、開けて白い猫を見たりを繰り返している。きっと記憶の中のクロスケと目の前の白い猫をまるで間違い探しのように比べているのだろう。


 驚異的な記憶力のヨッシーが、2匹の猫には色しか違いがないと言っている。みんなは頭が混乱している様子だった。


「チャチャ?」突然声がした。

 振り向くと、小学生低学年くらいの男の子とお母さんらしき人がこちらに駆け寄っていた。白い猫はニャオンといい、ヨッシーの手をすり抜け、男の子にすり寄った。


「チャチャ元気にしてた?さみしかっただろう。」男の子は涙ながらに白い猫に話しかける。


 そのときダイチさんが、あ!と何か思い出したようだった。

「君、僕が聞き込みに行った子だよね?たしかチャチャっていう茶色い猫が盗まれたって…。」


「その猫茶色とちゃうで?」アオイさんが男の子に向かって首をかしげる。


「この子はチャチャだよ!」

 すると横にいたお母さんも、

「たしかに色は違うし、証拠もないんですけど飼い主って、わかるんですよね。この子は特にチャチャのことが大好きだったからわかるみたいです。」とほほ笑んだ。


「そうなんです。この猫はチャチャなんです。そしてクロスケでもあるし、ミケでもある。モカでもぽんたでもシマでもあるんです。」


 全員が口をあんぐり開けている。ダイチくんが混乱した様子で言葉を出そうとしている。

「え…えっと、それじゃあ、今まで盗まれた猫は全部同じこの猫だったってことか?」

 わたしはそうです、と首を大きくうなずいた。

「でも模様が全然違うやんか。」

「「そうだ!」」2人にわたしは投げかける。

「こすると消えるボールペンって知ってますか?」


 3人がこくりとうなずく。

「あれは熱によってインクが透明になって見えなくなります。他にも消える墨汁なんてのは水につけると白くなるんです。この猫にもそんな風に何か手を加えると見えなくなったり、別の色になるインクを使っていたんだと思います。」


「じゃあ、クロスケは何度も捨てては連れ戻されて、いろんな色に染められていたってこと…?」ヨッシーがかわいそう…と涙目になった。


「うん。かわいそうだよね…。でもクロスケの様子を見てると人間を怖がっている様子もないから、インクで染めたり色を落としたりするのは痛くない方法で行われたとは思う。」

 それを聞くとヨッシーは少しほっとしていた。


「でも、誰がそんなアホみたいなこと、何のためにやってんねん!」アオイさんが少し怒りをにじませて言った。


 わたしはぺらりと紙を出しこういった。

「犯人はずっと自分が誰か、私たちに示していたんです。」




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