『51』 ごちそう
1つ前のページ⤴『??』
「UGDは特別な裏メニューです。秘密のベールに包まれています。メニューの写真もなく、実際に頼んでみないとどんなダンゴなのかはわかりません。店長はこう話していました。
『「ウルトラ・ゴージャス・ダンゴは、超高級食材と金箔、銀箔が散りばめられた、それはもう、贅沢な代物だったんです」』、と。
よく見てください。この串を。他の串には無い、金と銀のラメが散りばめられています」
「えぇ、そうみたいね。その串が、四方面くんが頼んだUGDの串であることは間違いないみたい。でも、それを私が食べたっていう証拠はどこにも……」
「それが、あるんですよ」
「!?」
「あなたは何も失言などしていません。もう一度よく見てください。金と銀のラメの中に、赤いラメが混ざっているのが見えませんか?」
「はっ……!」
彼女は思わず口元を押さえた。失言をしたからではない。
彼女は証拠を身にまとっていたのだ。赤いラメが魅力的なルージュを。
「そのルージュは、まだ日本に出回っていないものだそうですね。それは今日、四方面さんにもらった。同じものを粒越さんももらったが、すぐメイクさんに預けたそうです。このお店でその赤いラメを身に着けているのは、あなただけです」
自信たっぷりに、指をさした。
「あなたが、犯人だ!」
「…………ふふっ」
彼女はぱちぱちと、拍手をした。
「探偵って、本当にすごいのね。まぁ、決定的な証拠をキレイにしなかった私も私なんだけど。ラメを落とすにはコツがあって……」
「テープ、ですよね。テープの粘着で結構簡単に落とせるってテレビでやってました」
「そう、よく知ってるわね。テープが近くにあれば証拠を消せたのに……」
「すごく近くにあったんですよ。それは、あなたが行かなかったトイレです」
トイレの扉に貼ってあった張り紙。あのテープを使えばラメはキレイに落とされていただろう。
「……完敗ね。事件も汚れも、綺麗に片付けるのが上手。私の負け、だわ」
証拠の串は洗わずにそのままゴミ袋の中に、袋の外から突き刺して隠したと自白した。
「まさか、あのゴミ袋だらけの部屋を捜索しようって人がいると思わないじゃない? でも、参考になったわ。探偵って、案外すごいのね。探偵の目をごまかさないと、完全犯罪は難しいわ」
「マキ、君だったのかい。僕のダンゴを食べたのは。すぐに言ってくれればいいのに」四方面さんが、驚く。
「ごめんなさいね。思ったよりもあなたのびっくりした声が大きくて、つい黙ってしまったわ。すぐに探偵さんが出てきたから、言い出しにくくなっちゃった。あぁ、あなたのせいじゃないのよ。探偵さんは、正しいことをしたわ」
「ねぇねぇ、ゴマキ。あのダンゴ、おいしかった? 私、それがとても気になるわ」
粒越さんは五指越さんのことを咎めようとは一切せずに、UGDの味に興味津々だ。
「それはもう。ねぇ、私が弁償するわ。だから、もう一皿頼めないかしら。店長さん。お代はもちろん、2皿分支払うから。いいでしょう?」
「はい、よろこんで!」
たった2本で10万円……。血の気が引く思いだ。
なぜならば、たった今、UGDの存在を門崎さんに知られてしまったからである。
門崎さんの方を振り向くと、彼女は笑っていた。
「犯人は、五指越 真消。それで、ファイナルアンサーかしら? 千里くん」
「ふぁ、ファイナルアンサー……」
「……………………」
門崎さんは考え込むふりをした。ふりに決まっている。問題を出したのは彼女だ。彼女が答えを知っていないとおかしい。そして、俺が導き出した答えが正解に決まっていた。なぜならば、犯人が罪を認め、自白したのだから。
なのに。それなのに。門崎さんのその笑みが気になる。
五指越さんの沈黙。そして、俺自身の沈黙。その間は独特の間があった。
しかし、俺にとっては上司である門崎さんの沈黙が、何よりも怖かった。
まさか、いや、そんなことがあるものか。
「正解は…………、すみませーん。注文良いですかー? UGDを3つ!!」
「ちょ!! え? ま、え??」
「はい! かしこまりましたー!!」
店長はバックヤードに戻っていった。
門崎さんは声を潜めて言う。
「犯人は、彼女じゃありません。彼女は本当の犯人を、かばっているの。もう一度、考え直してね。あぁ、あと5分くらいかな。はい。頑張って」
「ちょ、どういうことですか!」
「すみずみまで捜査しないと、そういうことになるの。ちなみに、このゲームブックの中に『だれだれが犯人です』とは書いてないわ。ただ、五指越さんの他にとっても怪しい『だれかさん』の影が見える。手がかりZが、そのキーワードに届くカギになっているわ。それが、トゥルーエンドへのたった一つの筋道よ」
「へ? 手がかりZ? なんですかそれ」
「はい、あと3分。あぁ、楽しみだなぁ。ウルトラ・ゴージャス・ダンゴかぁ」
机に両肘をついて、手をほほに置き、肩を左右に揺らしながら鼻歌を歌う門崎さん。
とても楽しそうだ。それはそうだろう。今日のお会計は全部俺持ちだからだ。
「ねぇ、せっかくだから、こっちで一緒に食べようよ!」
粒越さんが客席でこっちに手招きをした。
「探偵さんのお話、すっごく興味あるし! ほら、はやく!!」
事件を解決したのに俺はとても絶望的な気分だった。
だけれど、これも良い機会で、いい出会いだ。
一期一会。ダンゴが出会わせてくれた、今日この日に感謝をしよう。
俺は、プライドをかなぐり捨てて、こう言った。
「探偵とこれまで扱った事件についてお話をさせていただくので、一人1本、UGDをごちそうしてもらえませんか?」
完
エンドB。
――――ノーマルエンド。
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