『53』 ウルトラ・ゴージャス・ダンゴ

        1つ前のページ⤴『1』


 先ほどのナンパ男性が叫んだ。俺は彼を諌めた。

「ちょっと、大きい独り言は他のお客さんに迷惑ですよ」


「無いんだ。僕が注文した、ウルトラ・ゴージャス・ダンゴが……!」


「え……! ウルトラ・ゴージャス・ダンゴが……!?」

 ウルトラゴージャスダンゴ、通称UGDは定価5万円の超高級ダンゴだ。

 メニューでも黒く塗りつぶされているので、一体どんなダンゴなのか、秘密のベールに隠されている。ダンゴに5万円なんて、軽い気持ちでは頼むことができない。


 なお、UGDの存在を門崎さんに知られてしまったら、今日は俺のおごりなので、絶対に注文されてしまう。注文されるおそれがあるとかじゃなく、百パーセント注文される。だからそもそもUGDのメニュー自体を彼女の目から隠している。


「え、なによ。その、ウルトラ……?」

 門崎さんの疑問も当然だ。俺が秘密のベールで隠しているからである。

「え、あ、そうですね。通の隠れメニューでして……、ひらたく言うとダンゴです」

「あ、そ」

 嘘はついていない。


 しかし、定価5万円のダンゴが盗まれたとなってはただごとではない。


「普通に考えたら、あなたのテーブルには他に女の子がいたでしょう? あの子たちのどちらかが食べちゃったんじゃない?」


 確かに。門崎さんの言う通りだ。

 今このテーブルには男の他に誰もいなかった。

 というか、そういえば、あの子たちはさっきトイレに行くと言っていたな。


「どうしたの、トイレまで聞こえたよ、あなたの声」

 女の子たちが戻って来た。

「君たち、僕が頼んだ『UGD』、もしかして、食べたかい?」


「食べてないよ? トイレに行くときに、テーブルに届いたよって教えてあげたのに」と黒髪のかわいい女性が言う。

「あなたが頼んだダンゴを勝手に食べるわけないじゃない。そこまで食い意地は張ってないわ」と、茶髪のきれいな女性が言う。


「食べてないそうですね」

「もしかしたら、高価なダンゴを置いたとみせかけて、こっそり店内に戻した、店員さんの仕業なんじゃない? お金だけせしめようとしたとか」


「いやいやいやいや。ちゃあんとテーブルに届けましたよ、私は」


 シューマイが、じゃなくて、店長が俺たちの席に注文のダンゴを届けに来た。

 みたらし、ごま、あんこ。5本ずつ。15本だ。多いな。

 

 狭い店内だ。ここまで騒げば誰の耳にも聞こえたことだろう。


 被害者の、謎の男。

 黒髪の女の子、茶髪の女の子。


 人の好さそうな店長。



 そして、俺と門崎さん。


 ここには6人しかいない。


 はたして団子を盗んだのは、誰なのか!


「ねぇ、千里くん。ダンゴを食べたの、誰か当てられたら今日のお会計、奢ってあげるって言ったら、やる?」


 え。

 守銭奴の門崎さんがそんなことを言うなんて。

 と言っても、今日のお会計の内訳はほとんどが門崎さんのダンゴだから、奢ってもらった感は全然ないけれど。


 いや、そんなことは関係が無い。

 探偵事務所でアルバイトをしている、探偵見習いとしてはいい難易度だろう。

「わかりました。俺がちょちょいと、この事件、解決してやりますよ!!」





 ・自分の席で門崎さんと会話

 →『20』ページへ進む

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る