よその子視点の話⚠︎︎新稲楽生くんはよその子です。

ピンクのふわふわである。

現在、おれ達がいるカフェの内装を簡潔に説明してみたが、特に意味は無い。新稲楽生(にいな らい)は目の前で大量のケーキを消費している男こと四季を引きつった顔で見ていた。自分の分のホットケーキをつつきながら、店内を眺めるがどこを視界に収めてもふわふわのキラキラである(余談だが、メニューを見るとどれも桁を一つ間違えたのではないかという強気設定だった)。男二人だと場違い感が凄まじくて、なんだか居心地が悪い。


こんなことなら断れば良かった。今朝、四季からメールアプリでパンケーキを奢るから付き合って欲しい、という趣旨のメッセージが送られてきた。律儀に店名も書かれていたが、面倒だったので検索はしなかった。暇だし奢りだラッキーくらいの感覚で了承したのだ。待ち合わせの場所に行けば、帽子を深く被りマスクをした四季がいた。一歩間違えたら不審者にしか見えない。本人曰く「休日はあまり知り合いに会いたくないから」らしいが、おれにはよく分からない感覚だった。


そんなことをぼんやり考えながら四季と合流し、スマホで地図を熱心に見つめる四季の後を一二歩遅れて歩く。時折、世間話にお互いの性活(誤字ではない)を口にしつつ。休日の繁華街を抜けて辿り着いたのはユニコーンの看板が置かれたカフェだった。透明なドア越しに見た内装は紫のクマやハート模様が印刷された壁紙で如何にも女子が好きそうな雰囲気だ。入口には薔薇があしらわれており、こんな所に入るのかと躊躇ってしまう。そんなおれとは反対に四季はなんの戸惑いも無くドアを開いた。


「入らないんですか?」

「いや……まあ、いいか……」

四季は首を傾げる。いつまでも店の前に突っ立ってる訳にもいかないのだ。まあ、奢りだしと自分を納得させて、そのまま中に入った。向かい合う形の席からキョロキョロと辺りを見渡しているといつの間にやらお冷が置かれていて、店員と話す四季は嬉しそうに目を輝かせていた。まるで子供だな。それにしても、店のことを調べてから返信すべきだった。横を見ると薄紫色の兎と目が合う。何度考えてみても野郎二人で来る店ではない。


数分後、大きなお盆を両手に持った店員がやってきた。店員はおれの前にオレンジジュースとパンケーキを置き、四季の前に次々とケーキを置いていく。どれもこれもカラフルで、近所のケーキ屋では見ないようなものが沢山ある。えっ、てか待って、お前そんなに食うの?軽く引いているおれをよそに、四季はマスクを外してしっかり手を合わせてからフォークを手に取った。そして冒頭に至る。


「おれじゃなくて彼女連れてこいよ」

「ん?なんでですか?」

「どーかんがえても男子高校生二人が寂しく来る場所じゃねーーーだろ!!此処は!!罰ゲームかよ!!!」

「そうですか?僕は気にしませんけど」

四季はケーキを食べる手を止めて、しっかりとした口調で言う。そして意味がわかりませんとばかりに首を傾げ、お冷に唇をつけてから続けた。

「それに僕はニーナくんと来たかったんですよ」

「それこそ彼女に言えよ~、ホモかよ」

「僕はニーナくんのこと好みですけど」

「それはどこ見て好みって言ってんのー!四季の好み要素なくね?! おれは四季の顔綺麗ですきだよ」

「ありがとうございます、冗談ですよ」


そう言ってまた黙々とケーキを食べ始める。四季は見た目に似合わず、冗談が好きだし、たまに本気か嘘かわからないことを言う。もしかしたら全部嘘かもしれないが、おれにそれを確かめる術はないし、確かめようとも思わない。知ってるのはお互いの性事情と性格くらい。でも、おれ達にはそれだけで十分なのだ。セックスの愚痴を言って、休日には会って遊んだりする。目の前でケーキを口いっぱい頬張る四季を横目に、こんな関係が少しでも長く続けば良い、と柄にもなく思った。


▼ E N D

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無償の愛では重すぎる ハビィ(ハンネ変えた。) @okitasan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ