四季のファンタジーパラレル

「自作武器の性能も試したいので、模擬戦闘、よろしくお願いしますね」

そう言って彼はニッコリと笑った。理知的な赤い瞳と黒い髪、目元にある二つのホクロが特徴的な彼は見たことがない得物を握っていた。その奇妙な得物は彼の身長より長く、片手で掴めるほど細い。彼の握る手の下には弾倉があり、それだけ見れば銃身の長すぎる狙撃銃のようだが、台尻が細長く彼の股下から地面まで伸び、まるで杖のようになっている。そして、何より特筆すべきは銃身の上部に直角に設置された巨大な刃である。彼の頭上に存在するカーブした刃もあり、その得物は遠目で見たら狙撃銃ではなく大鎌にしか見えないだろう。


目の前の彼、もとい四季が立っているこの青一色の空間は、人工知能、所謂AIであるワタシの製作者が管理している仮想現実の世界。要するにバーチャルリアリティシミュレーションによる模擬戦闘用の空間だ。ここで起きる全ての事柄は現実世界に反映されない。例えるなら、もし身体が木っ端微塵に吹っ飛ばされたとしても現実世界の肉体には何の影響もないということだ。現実世界のカプセルに入ることにより、実際の肉体を置き去りにして感覚と意識だけを持ち込める空間と言った方が分かりやすいだろう。


「今回の模擬戦闘終了条件は、挑戦者の空間上の死亡またはワタシの末端全ての死亡になります、よろしいですか?」

「大丈夫ですよ」

「では、これより神園四季の戦闘データ回収を開始します」

青一色の空間に、模擬戦闘スタートという緑色の文字が表示されると同時にワタシの末端が姿を現す。その数は両手の指を全て合わせても足りない。全身を覆う黒い毛皮にギラギラと輝く金色の瞳、毛むくじゃらの大きな背中を丸め、後ろ足で器用に二足歩行をする姿は、獣というより人狼のようだ。人狼達は四季を目にするや否や一斉に飛びかかった。


すると四季は得物を掴み身をひるがえす。高く高く飛び上がり、その銃口を人狼に向け眉間を撃ち抜いた。頭部を砕かれ絶命した人狼。構わずやってくるもう一匹を着地する瞬間に撃ち抜き。そのまま反動で後ろに逸れた身体を捻り、別の人狼の腹部に弾丸で穴を開けた。血が弾け、臓物が飛び散る。四季はくるりと回転し、襲いかかる人狼の首に刃をかけ、引き金を引く。その反動で刃が食い込み、飛んだ頭部。足を止めていた他の人狼が反応するより先に、四季は得物で人狼の胴を裂いた。残された下半身を思い切り蹴りつけ、横にいた人狼を牽制。そして後ろに飛び退き、敵討ちとばかりに集団で襲いかかる人狼に銃口を向け弾丸を撃ち込む。


しかし殺し損ねた一匹の人狼が四季に向かい走り腕を振り上げた。四季はそれをジャンプで躱し、そのまま器用に引き金を引く。弾丸は振り下ろされた人狼の腕を弾き飛ばし、血液が吹き出す。

「ふ、ふ、あはっ、あははははははは」

返り血に塗れた四季は笑っていた。剥き出しにされた加虐性から溢れる無邪気な笑声。四季は笑いながら襲いかかる人狼に刃を向け胴体を切り裂き、時には弾丸を叩き込む。止まない血の雨を降らせ死骸が次々と量産されていく。ふと、四季は人狼に銃弾を撃ち込み、その反動を使い後方に下がった。四季は自身の指に歯を立て血を零すと、弾倉に塗りつけ、トントンと叩き。「リロード」と呟く。すると小さな魔法陣が浮かび上がる。どうやら弾切れで装填したようだ。装填が完了した四季は人狼の群れとは反対の方向に銃口を向け引き金を引く。その反動で群れの方に弾かれた四季は弾丸を撃ち、反動で加速を繰り返しながら刃を振りかざし、残りの人狼達を狩り尽くしていったのだ。


「末端全ての死亡を確認、模擬戦闘を終了します」


殲滅された人狼達こと、末端に目を向け、ワタシは模擬戦闘終了のブザーを鳴らした。すると四季は小さく息を吐き、この青一色の空間で感謝を述べたのだった。


▼ E N D

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る