咲々良のファンタジーパラレル

「今回の模擬戦闘終了条件は、挑戦者の空間上の死亡またはワタシの末端全ての死亡になります、よろしいですか?」


今回の挑戦者はエメラルドグリーンの瞳と桃色の髪に黒いカチューシャと赤いヘアピン、真っ黒のセーラー服が特徴な少女だ。彼女の得物は腕に装着された拳から肘までを守る篭手のようなモノで手の甲側には銃口が覗いており、射撃可能なことがわかる。彼女こと咲々良は、青一色の仮想現実空間に立ち、不安げな表情で足元に視線を彷徨わせていた。


「……はい」

「では、これより神園咲々良の戦闘データ回収を開始します」

ワタシが告げると青一色の世界は美しい木々が生い茂る景色に変わって模擬戦闘スタートという緑色の文字が表示される。フィールド風景が森に変化した瞬間、表情を切り替えた咲々良はワタシの末端を睨みつけた。今回の模擬戦闘で使われる末端は、背を丸めた状態でも咲々良の二倍の大きさはある二匹の熊だ。熊の全身は真っ黒の毛皮に覆われており、顔には白いお面をつけている。


一匹の熊が咲々良に目掛けて鋭く巨大な爪を振り上げる。咲々良は身をひるがえして躱し。得物に包まれた肘を引き、熊の腹部に向けて拳を突き出した。すると連動するように得物の銃口から弾丸が発射され、拳と共に熊の腹部に命中する。得物から散る火花。衝撃で吹っ飛ぶ巨体。控えていたもう一匹の熊が唸り声を上げて咲々良の元へ走り出すが、咲々良は突進してきた顔面に拳と弾丸を叩き込んだ。熊が怯み再び動き出すより先に喉を蹴りあげてそのまま腹部に向かい拳を二度叩き込む。連動して発射される銃弾。木を巻き込み後方に吹っ飛んだ熊。ふと、殺気を感じ振り返ると、最初に攻撃した熊が血を流しながらも咲々良に襲いかかった。


咲々良は小さく舌打ちをして、熊の頭部に拳を撃ち込んだ。何度も繰り返し撃ち込まれる拳と連動するように発射する弾丸。熊の頭蓋骨を砕かれ、血が吹き出し、肉片と脳漿が森にばらまかれる。巨体の生命活動の停止を確認した咲々良はフィールドが切り替わらないことに気づいて周囲を睥睨した。エメラルドグリーンだった咲々良の瞳は既に明るい金色に変わっていて爛々と輝いている。


「く、ひ、あは、はははははは」

咲々良は返り血にまみれた形相を恍惚に歪め、無垢な童女のように笑い出す。得物に覆われた自身の両拳を合わせると、小さな魔法陣が浮かび上がる。魔法陣から青い炎が噴き出して得物全体を包み込むと咲々良は背に腕を突き出し、弾丸を連射して反動で加速しながら森を駆けた。へし折れた木々を下敷きにして気を失っている熊を視界に捉えると、咲々良は毛むくじゃらの腹部に飛び乗り、眼孔の開いた瞳で笑声を上げながら頭部に炎が纏われた拳を何度も何度も撃ち込んだのだ。


「末端全ての死亡を確認、模擬戦闘を終了します」


動かなくなった熊こと末端達。ワタシが模擬戦闘終了のブザーを鳴らせば、空間は瞬く間に青一色に染まる。咲々良の瞳はエメラルドグリーンに戻っていて糸が切れたかのようにペタンと座り込んだ。得物から魔法陣が消えたことによって炎は納まる。それを確認した咲々良は肩で息をしながら「ありがとうございました」と呟いたのだった。

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