第21話 スライムって最弱モンスターなの?

「みんな力を貸してくれ!」

 時田が両手をパンと合わせた。時刻は夕方。場所は図書館棟一階のロビー。皆、全ての授業を終えて後は帰宅するだけだ。そういった時間帯においては図書館棟のロビーで話すことが多かった。時田は徒歩でアパートに帰るのに対し、金星と鷲津は大学バスで一王子駅まで、巻原は車でそのまま自宅へ向かう。解散後、そのまま帰路に着く場合は大学に留まっていた方が都合が良いのだ。

「なによ。ルーンの札についてまた相談?」

「それともラグシェンの設定についてか?」

「レガリアについてでも良いですよ! あれ考えるの楽しいです」

 頼もしきメンバー達が口々に発言する。時田が腹を割ったあの日からチームの雰囲気は良好だ。向かっていく場所を共有したことで、一丸となって頑張っていく気持ちが生まれていた。

「今日はスライムについて相談がしたいんだ」

「スライム⋯⋯ですか? 確かすごく弱いモンスターですよね?」

「弱いってもんじゃないわよ金星ちゃん。スライムは最弱も最弱。究極の雑魚キャラよ」

「木の棒で二、三回叩いたら死ぬからな」

「そんなに弱いのになんで襲ってくるんでしょうか⋯⋯うちには理解できません」

 そう。スライムといえばファンタジー界隈を代表する雑魚キャラだ。少なくとも日本では。小さくてぷにぷにしている可愛らしい見た目からファンも多い。時田がビシッと三人に向けて人差し指を向ける。

「そこなんだよ! スライムは弱いという常識を崩していきたいわけよ」

「いや、弱いでしょ。合体して大きくなったところで、めっちゃ上がるステータスは体力ぐらいじゃん」

「そういうところなんですって真希さん! それは既存の作品に植え付けられたイメージなわけですよ! スライムは強くたって良いんだ!」

 あ、始まった。と三人は思った。急にテンションが上がった時の時田は面倒くさい。鷲津がマウスの左側を二回カチカチと叩きながら言った。

「お前は常識が大っ嫌いだな」

「あったりまえだ! もちろん共通認識だとかお約束ってのは大事さ。だけど全部が全部そうだったら同じものになっちゃうだろ。考えもなしに人の真似をするだけじゃいけないわけよ」

「そうだな」

 面倒くさいモードの時田に対していつも平然と対応している鷲津を、巻原と金星は素直にすごいなと思った。

「で、俺たちは何をしたら良いんだ?」

「強いスライムを考えてほしいんだ」

 ふんすと胸の前で腕を組んだ時田は真剣な顔で頷く。まず最初に金星が手を上げた。

「で、では超巨大スライムとかどうでしょうか? 街全体を呑み込んでしまうほどのサイズで、一度呑み込まれたら息が吸えなくて窒息してしまうみたいな⋯⋯」

「それ良いな! 複数の国が協力して討伐戦とか出来そうだ」

 鷲津が眼鏡をくいと持ち上げる。

「仮に千体のスライムが合体しているのだとしたら、木の棒で約三千回叩いたら倒せるな」

「超巨大スライムに木の棒で戦いを挑むなよ!」

「なら千人がかりで戦えば良い。怒涛の勢いでなだれ込んでくる人の波だ。迫力はバッチリだぞ」

「千人全員が木の棒持って突っ込んできたらシュールだろ! 面白くなっちゃうから! どこの民族だって話だよ!」

 今度は巻原がペンタブのペンを持ち上げて言う。

「あ、触れたもの全てを溶かすスライムとかどう?」

「それ良いですね! 木の棒でやられる心配もありませんし」

 時田はジィッと鷲津を見た。それとほぼ同時に金星がはしゃぎながら手を挙げる。

「じゃあじゃあ! 炸裂するスライムとかはどうでしょう! 近づいたり、攻撃したりすると炸裂して、周囲に溶解液が銃弾みたいに飛び散るんです。それで身体が蜂の巣にされてしまうみたいな」

「さっきから金星のは怖いよ! いやまあ、アイデア自体は実にアリだけどさ」

「⋯⋯え、怖いですか? じゃ、じゃあ溶解液はやめて接着剤にしましょうか。剥がそうとすると皮膚まで剥がれちゃう強力なやつみたいな」

「逆にそれのどこが怖くないのか教えてくれる?」

 数十分の論議の末、金星のアイデアが全て採用されることに決まった。

 また、ボスの設定と残酷なことが絡むシーンについては必ず金星にアイデアをもらうことになった。金星は必死に抗議していたが、彼女の言葉を聞く者はその場に誰もいなかった。

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