第1話 フールズゲーム

時田ときた。カノブレイズ王国のマップが出来たぞ。確認してくれ」

「⋯⋯うーん」

 時田と呼ばれた青年はうんうんと唸っていた。黒のローテーブルに置かれたノートPCの前で頬杖を付き、宙を眺めている。かれこれ一時間ほどこの調子だ。

「おい。早く見てくれ」

「⋯⋯ちょーっと待ってくれ。もう少しで閃きそうだからさ」

「一時間をもう少しとは言わない。とにかく見てくれ。一度気分転換した方が物語の続きも閃くと思うぞ」

「そういうお前は順調だよなぁ。羨ましいよ」

「俺は与えられた設計図を形にしているだけだ。羨ましがられることなんか欠片もない」

 時田と会話を交わす青年の名は鷲津鷹雄わしずたかお。時田の相棒であり、プログラマーを担当しているゲーム制作仲間である。

 彼らは他二人の仲間とともにフールズゲームという非公認ゲーム制作サークルでRPGを作っている。

 シナリオを担当している時田時宗ときむねがリーダー。他にグラフィック担当、サウンド担当がメンバーとして所属している。

 少人数のため、制作しているゲームのクオリティは質素。数百人のマンモスチームによる超美麗グラフィックやボリューム満点かつフルボイスのシナリオや複雑で高度なゲームシステムなどを再現することは出来ない。それはもう弱小という言葉が実に似合う“非公認”ゲーム制作サークルであった。

 時田は鷲津のPCに表示されている見下ろし式のマップを見て、楽しそうに笑った。

「お。良いね。ちゃんと城になってるじゃん。ドット細かいなぁ。国章とか飾り盾とか⋯⋯内装の色も赤が多めになってるし、火のルーンの国っぽい」

「この方向で大丈夫そうか? ならこのまま仕上げにかかるが」

「おっけ!」

「わかった」

 ルーンオブサクリファイス。

 それが時田達の制作しているゲームのタイトルだ。人知を超えた力を与える『ルーン』をテーマにした王道ファンタジーである。

 ルーンをめぐって諸国が戦争をしたり、ルーンの力に魅了された人間と戦ったり、ルーンの力で人を救ったり⋯⋯ルーンにまつわるストーリーを踏みながら、少しずつルーンの真実に迫っていき、真の黒幕に辿り着くという作りになっている。

「よっし! 俺も頑張って続きを考えなくちゃな!」

「マジで頼む。こっちで作業できるものがなくなる。⋯⋯で、どこまで書けたんだ?」

「カノブレイズ王国の設定まで!」

「⋯⋯大至急続きを書け。俺の仕上げが終わるまでにだ」

 ——フールズゲーム。それは愚者達の作るゲーム。

 この物語は、地位と名誉と人材を兼ね備えた皇帝を打ち倒すために集った愚者達の英雄譚である。

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