第14話 INTが上がるとどうして魔法が強くなるの?

 からっと晴れた青空が広がっている。青を真四角に切り取る窓枠の内側で、今日もフールズゲームの面々はゲーム制作に勤しんでいた。

 といっても時田が書いているシナリオはまだ完成していない。しかも三分の一にすら満たない進行度である。それでは他メンバーも制作にあたることが出来ないということで、時田の描く物語の中で確定した部分から制作していくという、自転車屋さんもびっくりの自転車操業をしていた。

「なあ鷲津。INTが上がるとなんで魔法が強くなるんだ?」

「そんなことどうでもいいから、早く物語の続きを書け」

「いや、気になっちゃって集中できないんだよ。頼むから一緒に考えてくれよ」

「一緒に考えてあげてもいいけど⋯⋯その代わり、絵が完成してからやっぱり無しって言うのもうやめてくれる?」

 ぎくりと時田はしゃちほこばった。

 話に入ってきた巻原の声には抑揚がなかった。貼り付けたような笑顔で時田に顔を近づける。

「やめてくれる?」

「は、はい⋯⋯善処します」

「やめて⋯⋯くれるよね?」

「はい! もうしません!」

 自転車操業だからこその弊害。それはシナリオに変更があった場合、用意していた素材がボツになることである。

 時田はフールズゲームのリーダーだが、マネジメント能力は皆無だった。物書きとして全力を出す以外に能がない。円滑にチームを回すということに頭は回らず、事前に危険を察知して対策を練るような機転も効かない。

 皆が時田についてくるのは、質の良いゲーム制作プロジェクトに参加したいからではない。面白いゲームを作りたいという嘘偽りのない熱意に魅せられたからだ。そこにはもちろん、心の通っていない高品質ゲームを制作している九十九帝を打ち倒すということも含まれている。

 それゆえに多少のグダグダは目を瞑る心構えを全員持ってはいるのだが⋯⋯さすがに時田がへっぽこすぎて、巻原のイライラは募るばかりであった。

「ダークエルフをボツにした恨みはデカイぞ。後で考えるでも良いからさ、なんとかストーリー中に組みこんでよ。せっかく可愛く書けたのに残念すぎるって。あ、モブで出したらそれこそ怒るから」

「は、はい⋯⋯すみません」

 以前に時田が話していたダークエルフの守る森は、設定の都合上ハイエルフとエルダードワーフが守る森に変更された。今のところ、ダークエルフがメインストーリーで絡むシナリオは出てきていない。

「で、INTがなんだって?」

 ふうと息を吐いて、巻原は腕を組んだ。

 ⋯⋯時田はプロじゃない。巻原は鷲津の言葉を思い出す。熱意とこだわりがあれば、どんなに高い壁でも越えていける。そう信じて疑わなかった。いや、今でも信じているし疑っていない。だが自分と違う場所で悩み、つまづく者もいる。巻原はそれを認めることにした。

 だから。鷲津に時田はプロじゃないと言われたあの時から、もう少しだけ彼に優しくしようと巻原は思った。

「あ、ですからね? INTってインテリジェンスの略じゃないですか。和訳すると知性とか知識って意味ですよね? なんでそれが高まると魔法が強くなるのかなって」

「まあ⋯⋯フィーリングじゃない? そんなに気になることかね」

 ばっ! と、時田は片腕を真横に振った。

「ありますよ! ええ、ええ、ええ! 大いにありますとも!」

「⋯⋯へぇ」

 優しくするのやめようかなと巻原は思った。

「いいですか? 仮にINTで魔法攻撃力が上がっていくとしましょう。そうしたら天性の才能だけで魔法使いをやっているようなバカはどうするんですか! INTの数値が一定以上に達したら、知的な口調になるとでも!?」

「あー⋯⋯なんかそう言われるとおかしい気がしてきたわね」

 頭をかく巻原の隣で、金星がお茶を啜った。ふうと一息ついてから発言する。

「そもそも魔法使いって頭の悪い人でもなれるんですかね」

 衝撃の一言に、時田と巻原はピシッと固まった。そしてシンクロする。

「「確かに」」

 そこにずっと黙って聞いていた鷲津がトドメを刺しにいく。

「魔法使いでなくとも問題ないように、INTを撤廃すれば良いだろう。MAGIC POWER⋯⋯略してMPでどうだ」

「で、でもMPだと魔力最大値のマジックポイントと被るぞ!」

 鷲津はふんと鼻で笑った。

「そんなものMPではなく、MANAと言い換えれば良いだろう」

 時田と巻原はもはや驚くような素振りもせず、真剣な面持ちで声を合わせた。

「「確かに」」

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