第4話 続々 ファイヤーボールってどんな魔法?

「ちゃんと口で説明しろアホ」

「金星、オレの動きを見て感じるんだ。オレが本当に伝えたいことを⋯⋯!」

 巻原が大きなため息を吐く。いい加減ツッコミ疲れたようである。

「ファイヤーボールという魔法はどんなものなのかを話していたんだ」

「ちょっ! なんで言っちゃうんだよ鷲津!」

「お前が面倒くさいからだ。とっとと話を進めろ。打倒九十九つくもなんだろ?」

「な⋯⋯」

 鷲津のはっきりとした物言いに時田は動きを止めた。それからしゅんとして石段に座り、両膝を抱えてしまう。時田は空気が読めないことも多く、マイペースな性格だが、メンタルは弱かった。

「あ、あの、時田先輩⋯⋯? 大丈夫ですか?」

「放っておけば治る」

「旦那が言ってるんだから、間違いないわよ」

「⋯⋯旦那?」

 巻原の言葉に金星は首をかしげ、

「オレが嫁かよ!」

 時田は両膝を抱えたままの姿勢で、わぁっと叫んだ。その様子を見た巻原がフッと笑う。

「ほら元気」

「あーもう! 続き話しますよ。話せば良いんでしょ」

 時田はそう言いながら、すっくと立ち上がり、こほんと咳払いをした。

「そもそもファイヤーボールって何属性なのかって話です。炎なのか、闇なのか」

「そりゃあ炎なんじゃないの?」

 巻原の返答に時田がちっちと指を振る。

「ファイヤーボールって、もちろん火球って意味もあるんですが、人魂だとか狐火だとかスピリチュアル的な意味もあるんですよ」

 鷲津が腕を組んで言った。

「それなら用途で使い分ければ良いだろう。火属性なら火っぽくして、闇属性なら闇っぽくすれば良い」

「そんな曖昧じゃいかんでしょうが⋯⋯! オレの中のファイヤーボールの定義を決めたいんでしょうが! 同じ名前なのに効果変わるとか嫌なんでしょうが!」

「知らんがな」

 わぁっと熱くなる時田を巻原は冷ややかな目で一蹴した。金星がおずおずと手を上げる。

「あ、あの。そういうことでしたら、明確に内容をイメージ出来るネーミングにしてみるのはどうでしょうか?」

「なに!?」

「ひぃ⋯⋯! すみません! すみません!」

 時田は身体をひねり、金星にビシッと人差し指を向けた。黒のジャケットがばさりという音を立てて翻る。

「それは良いアイデアだ金星! やるなぁ!?」

「ひぃ⋯⋯! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 関西の訛りで同じ言葉を連呼するのなんか面白いなぁと鷲津は密かに一人でニヤついた。

「ちょっと! いちいちオーバーリアクション取らないでくれる? 金星ちゃん怖がってるでしょ」

 時田はきょとんとした。それから少しして申し訳なさそうにこめかみを掻く。

「あれ⋯⋯そんなにオーバーでした? ごめんな金星」

「だ、だいじょうぶです。少し驚いただけなので。きっと⋯⋯いずれ慣れると思います」

 ふうと巻原は息を吐いた。機嫌悪そうに両腕を組み、時田を静観する。一方の時田は極めて冷静を意識しつつ、話を進めた。

「金星のアイデアを採用するなら、炎系はバーニングボール。闇系はダークネスボールって感じかな」

「は、はい。そんな感じが良いかと思います」

 鷲津も頷いて言う。

「その名前を聞いてすぐイメージする内容を考えながら決めるのが良いかもな」

「そうなるとファイヤーボールはバーニングボールの下位互換って感じね」

 と、巻原も微笑を作ったところで皆の意見がまとまった。

 ⋯⋯ところが。

「じゃあバーニングボールとダークネスボールってどんな魔法なんだ!? みんな一緒に考えてくれ!」

 あ、これキリがないやつだ。

 そう思った時田以外の三人は互いの顔を見合い、意思疎通する。

「そろそろ昼休みも終わりね。二人は次の教室どこなの?」

「う、うちは総合研究棟の特別講義ホールでDTM入門の授業です」

「俺は情報学部棟一階の講義室でプログラミングの基礎を受ける」

「私は総合研究棟の三階。金星ちゃんと途中まで同じね。せっかくだし入り口まで一緒に行こっか」

「は、はい!」

 じゃ。というような感じで三人はパッと二手に分かれて、時田から離れていった。

「え!? ちょっと! まだ昼休み5分あるでしょうよ! なんで!?」

 中央で噴出していた水の柱が消える。

 この広場の噴水は十二時五十五分から十六時までの間、稼働を停止する。もちろん節約という意味もあるが、昼休みが終わる合図としての意味合いが強かった。

 周りの人もみるみるうちに消えていき、時田のみが中央噴水広場に取り残された。

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