第3話 続 ファイヤーボールってどんな魔法?

「ちょっと。ちゃんと見ていてくれました?」

 怪しい動きで両手をわきわきしていた時田が、その動きをやめるやいなや二人に詰め寄った。

「見てはいたわよ」

「じゃあなんか言ってくださいよ」

 巻原の物言いに、時田はヘソを曲げたのか両腕を組んで口を固く結んだ。

「いやもう途中から無言だったでしょ。気持ち悪い動きしながら、黙って指をわきわきさせてるだけのやつに、なにを言えと?」

「ツッコミ待ちでしょーが! もうやめてくれよとか、戻っておいでぐらい言ってくれても良いでしょ!」

 そう叫びながら、チラと鷲津を見る。すると鷲津は何も言わずにふいと顔をそむけた。

「おいこら幼馴染! 巻原さんはともかく、お前は分かってて無視しただろ」

「そうだが」

「潔いな!」

「最近思うんだけど、あんたたちボケとツッコミ逆よね?」

 と、わいのわいのやっている三人組に一人の少女が近づいてくる。

 高身長の三人組とは対照的な小さい女の子。

 ゆるふわウェーブのボブヘアーに淡い金髪。小さな顔に優しそうな目。そして小柄な身体をゆったりとした洋服で包んでいる。まさに小動物と称するにふさわしい少女だった。

「遅くなってしまってごめんなさい⋯⋯! 音楽の先生に質問していたら、熱弁されてしまって」

 少女は関西の訛りで話しながら、ペコペコと頭を何度も下げた。そんな少女に巻原はねめつけるような視線を送った。

金星びーなすちゃん。遅い。遅すぎるよ。このアホどものおもりも楽じゃないのよ?」

「す、すみません⋯⋯!」

 田中たなか金星。今年入学した新入生であり、フールズゲームの四人目のメンバーである。臆病者かつ恥ずかしがり屋なので、フールズゲーム入会当初は会話もたどたどしく、三人は彼女とコミュニケーションを取るのにとても苦労した。しかし入会から約一ヶ月半経った今ではそれも少しずつ緩和されてきて、段々と会話も出来るようになってきた。特に巻原は金星を溺愛するまでになった。

「うそよ。金星ちゃんはいつも勉強熱心で偉いね。ほら、ここ座って」

 巻原の睨めつけもつかの間、パッと笑顔を作り、金星を自分の隣へと座らせた。その様子を見ていた男組が顔を突き合わせる。

「なあ鷲津。俺たちの時と態度が違いすぎないか?」

「女尊男卑。セクシャルハラスメント」

「おいそこ! おかしなことを言うな! 態度が違う原因を作ってるのはお前らだろうが!」

 ずびしと人差し指を差し向けた巻原を一度見て、二人はもう一度顔を突き合わせる。

「んん?」

 そして同時に首を傾げた。

「そういうところだよ!」

「あ、あのあの、今日は皆さんどんなお話をされていたんですか?」

 このままでは埒が明かないと思った金星は、話題を転換させた。彼女はメンバーの中で最も気配り上手である。

「ファイヤーァァア⋯⋯ボォォォル」

「⋯⋯はい?」

 ふいに怪しく両腕を上下運動させながら呟く時田を見て、金星は首をこてんと傾けた。

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