第7話 宝箱討論会
「時田。宝箱のデザインどうするんだ? いい加減に決めてくれないか」
「おおっと。鷲津君。ついにその話題に触れてしまいますか」
「要件だけ言え」
「冷たい!」
いつものコンビの会話を聞いていた金星が首を傾げた。
「RPGの宝箱といえば、赤色の箱に金の装飾が付いているやつじゃないんですか?」
「甘い! 甘いよ金星!」
「ひっ! すみません!」
「ときたー。金星ちゃんをびっくりさせるんじゃない」
L字型のウッドデスクにかじりついている巻原が、背中をこちらに向けたまま時田を制した。彼女は先ほど時田達と話したダークエルフのキャラクターデザインに夢中になっていた。ダークエルフの設定を気に入ったらしく、楽しそうに資料を漁りながらずっと絵を描いている。
「すみません。⋯⋯でも、RPGの宝箱の定番が赤に金の装飾というのは違うと思いませんか?」
「いや⋯⋯私もそれが定番だと思うけど。あとごめん。今は集中したいから三人で宝箱論議をしてくれる? 先にダークエルフのネルヴァちゃんを描きあげたいから」
「え、名前決まってるんすか⋯⋯俺がライターなんですけど」
「なに? ダメなの? ネルヴァちゃん」
「いや⋯⋯駄目ってわけじゃないですけど」
「じゃあ良いでしょ。決定ね」
「えぇ⋯⋯」
そこで鷲津がパッと片手を上げて言った。
「そんなことよりも——」
「そんなことってなんだバカ!」
「そんなことってなによ!」
と、時田と巻原の二人が同時に声を上げた。一方の鷲津は片手を上げたまま静止する。その表情は明らかに苛立っていた。鷲津は温厚で真面目な人間だが、頭に血が上ると真面目をこじらせて暴走するクセがあった。
これはまずいと思った金星がわたわたと手を振る。
「あ、あのあの! ひとまず名前は置いておきましょう! 間を取ってネルヴァちゃん(仮)ってことで手を打ちましょう! そんなこと——」
じぃっと自分を見つめる時田と巻原の視線に気づいてハッとする。
「⋯⋯も! そんなことも! ありましたが! ね!? い、今は鷲津先輩の話を聞きませんか? 宝箱のデザインが決まっていなくて困っているわけですし」
「うーん⋯⋯わかったよ」
「そうね。邪魔してごめんね、鷲津。なにかあったら私も呼んで」
金星の説得で、時田と巻原の二人は冷静さを取り戻したようだった。時田の方はまだ不服そうだったが。
「えっと。とりあえず宝箱のデザインを決めなきゃなんですよね?」
自身の苛立ちを撫で下ろすように、鷲津は一度下を向いてふうと息を吐いた。
「そうだ。現状は仮デザインの宝箱を配置することで対応しているが⋯⋯このまま仮データが膨大になれば、差し替える作業に相当な時間が発生する。だから早く決めたい。あいにく今の制作ソフトには一括変換ツールが付いていないんだ」
「一括変換ツール? 差し替える?」
こてんと首を傾げる金星を見て、鷲津の眉間に皺が寄り始める。
「はっ!」
金星は一瞬息を呑んだ。なにやらまずいことを言ってしまったと察し、再び両手をわたわたと振る。
「と、とにかく! 今決めないとあかんのですよね!? そ、それならうちも手伝いますから! 頑張って決めちゃいましょう!」
「⋯⋯そう簡単にいくかな?」
「さっきから時田先輩は誰の味方なんですか!」
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