舌戦<激論>

「星田先生、あなたたちはいつも被害者よりも加害者を守ることに心血を注いでいるような気がしてならない。なぜ、人に迷惑を掛け、人の尊厳を貶め、人の財産を奪い、人に暴力を振るってきた人間を庇うんでしょう?


彼らにとっては遊び半分やストレス解消程度に思っていることも、やられている側にしたら一生残る傷を負わされるんです。外傷ではなかったとしても心には相当の傷を受けている。イジメられた側は一生引きずるトラウマを背負うかもしれない。なのに、イジメている側は何一つ傷を追わない。小学校でも中学校でも高校でも、もしかしたら大人になり会社に入っても、内気な人をターゲットにイジメを続けるかもしれない。なぜなら、イジメをしても痛い目を見ることはないと思っているから。痛い目を見た経験がないから、そう思ってしまうのも仕方ない。


私だって、全ての子供が必ずイジメの加害者になるような社会なら、こんなサービスを作ろうとは思いません。しかし、今の社会において全員が加害者になることはない。と言うことは、他人を思いやり、優しく接することが出来る人と出来ない人がいることを証明していることになる。『三つ子の魂百まで』じゃないですが、子供の頃に相手の痛みや辛さを考えられない人間は、大人になっても分からない可能性がある。そういう人たちにとっては、法律の役目の一つである抑止力と同じ効力を持たせる物を子供にも作るべきではないでしょうか?


このサービスこそ、その抑止力になり得ると思いませんか?更生なんて遠回しなことはせず、最初からイジメそのものを無くす方がよほど大切ではないでしょうか?」


鬼丸は機関銃のように自分の意見をぶつけ続けた。星田議員は腕を組み、目を閉じながら黙って聞いていた。


「星田議員、鬼丸さんのご意見について、どうお考えでしょうか?」

「そうですね。彼が言っていることは理想論に過ぎず、現実的ではない。このサービスがあるからといって、イジメが0になる確証がない。その上、人の一生を左右しかねないサービスを許してしまうと、今度はサービスが暴走して子供たちを脅す道具になりかねない。私たちは、物事の一面だけをみて判断している訳ではない。


また、私たちは加害者を守ることに心血を注いでいるという表現をされていたが、これは今すぐ撤回してほしい。加害者を守るという表現は誤っている。加害者が自分の犯した罪を償い、反省し、社会に復帰する。人間は誰しも過ちを犯してしまう可能性がある。それを無視して、一度の過ちしかも子供というまだ精神的にも未成熟な状態での過ちを吊るし上げて、一生を台無しにするなんて良い訳がないでしょう。」


星田議員の発言を受けて、鬼丸が即座に反論した。

「理想論を掲げて何が悪いんですか?あなただって、『イジメ0』という公約と言う名の理想論を掲げて活動されているじゃないですか?それに、現実的ではないと言うなら、あなたが議員になってから行った活動で、イジメは減ったんですか?」


「イジメというのは根深い問題なんだ。そんなすぐに効果が出るような簡単な問題ではない。しかし、私がやっている行動は間違いなく数年後には効果が出てくるだろう。」


「具体的に何をされているのか教えてください。また、数年後と言いますが、その間にもイジメられてしまう子供たちは数多くいるでしょう。もしかしたら、最悪のケースとなってしまうイジメが起こらないとも限らない。そういった子供たちは必要な犠牲として目をつぶれと言うのですか?」


「私の活動は議員報告として公開しているので、そちらを見ていただきたい。やっていることが多過ぎる上、細かい説明までしないと理解できないと思うので、この短時間で伝えることは難しい。そもそも私と今日、話すことが分かっていたんだから、相手の事を予め知っておくくらいの事前準備をするのが当たり前だろう。そんな事すら出来ないような若輩者が提案するようなサービスなんて、大した成果を出せる訳がない。


この数年間の間でのイジメを犠牲として目をつぶれなんて誰が言った?人の言葉尻を拡大解釈することは辞めていただきたい。もちろん、効果が目に見えて出るまでの期間においても、出来る限りのことはする。しかし、先ほども言ったが過去何十年以上も無くならないイジメは根が深い問題だから、どうしてもこぼれ落ちてしまう事例は発生してしまう。でも、そこは現場で働く学校の校長や先生方に任せるしかない。」


ここでアナウンサーが一度、口を開いた。

「ここで一旦、CMに行かせてください。」



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