茫然自失

翌朝、鬼丸は登校するなり職員室まで来るように言われた。

職員室に行くと、梨田先生に連れられて校長室に連れて行かれた。


「なぜ、校長室に呼ばれたのか分かるかい?」

校長先生は鬼丸に質問した。

鬼丸は「昨日、僕が投稿した動画の件ですか?」と小さな声で答えた。


「よく分かっているじゃないか。梨田先生から授業でネットの怖さなどは教えていると聞いているんだけど、鬼丸くんは授業をちゃんと聞いてなかったのかな?皆んなに迷惑を掛けてまで、ネットで有名になりたかったのかな?」

鬼丸は校長先生がイジメについて確認してこないことに若干の疑問を感じていた。


「いえ、あーいった動画を投稿したら多くの人に迷惑がかかることは分かっていました。でも、僕が置かれている状況を知ってもらい、助けてもらうには投稿するしかないと思いました。」


「鬼丸くんが置かれている状況は聞いているよ。いつも頑張っているお母さんにプレゼントしたくて、あんなことをしたんだろ。でも、ネットで有名になったからといってお金をたくさん貰える訳じゃないんだよ。それに、君が星田くんたちを巻き込んでしまった為に、星田くんの親御さんにも迷惑が掛かっているし、学校にも迷惑が掛かった。君が自分の欲望の為に起こした行動のせいで、本当に多くの大人が迷惑を被っている。母子家庭で貧しいから、お母さんを楽させたくてお金を集めようとする気持ちは大事だけど、今回はやり方が悪かった。二度とこういう事はしないように。あと、投稿した動画は今すぐ削除するように。」


校長先生から一方的に話された内容は、鬼丸が想定していた内容とは全く違っていた。イジメを訴える為に投稿した動画が、なぜか自分が悪者となっており、イジメではなく炎上商法を目的とした行動にすり替わっていることに、鬼丸は混乱していた。


「聞いているのか?返事は?」

校長先生は混乱している鬼丸の様子など意に介さず詰め寄った。鬼丸は何が何だか分からなかったが、校長先生の迫力に圧倒され、

「はい。」

と返事をしてしまった。


「じゃあ、梨田先生、あとはよろしくお願いしますよ。」

「分かりました。ほら、鬼丸行くぞ。」

梨田先生は校長先生に一礼すると、呆然としている鬼丸を無理やり立たせて校長室をあとにした。


梨田先生は、校長室を出ると職員室に鬼丸を連れて立たせた。

「鬼丸、お前本当に何をやってくれたんだよ。先生も校長先生も、星田のお父さんも多くの大人が昨日の夜は、お前の動画のせいで振り回されたんだぞ。」

梨田先生もイジメは無かったように話をするので、鬼丸は思わず反論した。


「先生、昨日の動画を見てくれたんですよね?僕は、毎日のように星田くん達に殴られたり、消しカスを掛けられたり、教科書に落書きされたりイジメにあってるんです。何度ヤメてと言ってもヤメてくれないから、僕はネットに投稿することにしたんです。イジメをやめさせてください。」

鬼丸は目に涙を浮かべながら梨田先生に訴えた。


「星田はお前をイジメてないと言っている。昨日の動画だって、お前から無理やり頼まれたから本当はやりたくなかったけど、仕方なくお前を殴ったと言っている。星田だけでなく、月野、空島の二人もお前にお願いされて、仕方なく殴ったと言っているぞ。昨日の動画を撮られた時以外では、お前を殴ったことなんて一度もないし、イジメてもいないと言ってる。3人が口を揃えて言ってるんだから本当なんだろう。お前は、お金目的の為に動画投稿してしまった事を隠すために、イジメをでっち上げているんだろう。」


『梨田先生は僕の主張など聞くつもりがない。』

鬼丸は担任の先生は自分のことを信じてくれると思っていただけに、その場に崩れ落ちた。

「おい鬼丸、大丈夫か。今日はもう家に帰れ!後日、改めてお母さんにも話をしに行くから、その日までとりあえず学校には来なくて良いから。」


鬼丸はこの日、10歳にして社会や学校から見放された。

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