舌戦<突破>
CM後、鬼丸が口を開いた。
「長年、根が深くイジメが無くならない現状であると認識されているのであれば、前例のない俺が提唱しているサービスを一度、試してみませんか?時代は変わっていきます。それに合わせて法律であったり、考え方であったり、対応の仕方であったりを大きく変えていかないと社会を健全に保つことは難しくなってしまいます。
前例がないからやらないでは、国は衰退の一途を辿るばかりです。何かが起こってから対応するという後手後手の対応ではなく、先手先手で対応していく国へと変えていきませんか??」
鬼丸からの問いかけに対して、星田議員はずっと懸念していた事を質問した。
「一つ確認したいんだが、君が提唱しているサービスは、今時点でのイジメに関わらず、昔のイジメに関しても事実認定がされたら登録される仕組みですか?」
「そうですね。なので、このリストへ最初に登録される人は、あなたの息子さんになります。」
「なぜだね?息子がイジメをしていた事実は確認されていないだろう?」
「先日、あなたが会見で読み上げた元秘書の方の手紙に、『3人から謝りたいという打診を制して謝る機会を与えなかった』と書いてあったじゃないですか?そして、私が公開した動画の二つがあって、イジメられていた当事者の私自身の証言もある。これらの情報を総合して考えれば、イジメがあったと認定されませんか?」
星田議員は元秘書の手紙に息子たちのことが書かれていることを忘れていた。その結果、自分で墓穴を掘ってしまった。
「それとも、先生はイジメ0にすることは目指すが、自分の息子がイジメている事実は目をつぶっておきたいという事ですか?それは本当に政治家として正しい姿ですか?」
「そもそも、我々政治家が一企業のサービスを認定するかしないかということはない。違法性があるとされた場合は、司法の場にて結論が下される。つまり、今この番組で私から同意を得ようと得まいと関係ないことではないか?」
星田議員は息子の話から逸らすため強引に話題を変えた。
「もちろん、あなたの言う通りサービスに違法性があるかどうかの判断は裁判にて結審されることでしょう。しかし、イジメ0を目指す理念が同じあなたと議論をすること自体は意味あることだと思っています。立場上、特定企業やサービスを指示することは出来なくても、興味を示すことくらいは出来るでしょう。そして、もう一つ。あなたの息子が私をイジメていたという事を認めますか?認めませんか?これは議員の立場は関係なく、回答することが出来ますよね?」
鬼丸にとって、何よりも聞きたい質問をぶつけた。
「私の息子が君をイジメていたかどうか。これに関しては、現時点では何とも言えない。秘書の手紙に書かれている内容も事実だったかどうか、息子に確認してみない事には何とも言えない。」
「あの会見の前に、自分の息子への事実確認を行わなかったんですか?昔と同じように、秘書の手紙を鵜呑みにして会見を開いたんですか?ということは、あなたは昔も今も何一つ変わっていないじゃないですか?あなたは、会見で『当時、事実確認をせずに秘書の話を鵜呑みにしたこと』についてお詫びをすると言っていました。本当に謝るつもりがあるなら、少なくても手紙の内容が事実がどうか確認できる部分、『自分の息子に事実確認をする』くらいは普通するんじゃないですか?」
鬼丸は怒涛の質問ラッシュを浴びせた。
ここで星田議員の秘書がディレクターにカンペを出す指示をした。
『アナウンサー、投票に進んで』
アナウンサーはカンペ通りに番組を進行させた。
「議論が盛り上がっておりますが、放送時間も無くなってきてしまったので、ここで討論は終了とさせていただき、投票へと移らせて頂きます。お二方、本日はありがとうございました。」
星田議員は軽く頭を下げると足早にスタジオを後にした。
番組最後の投票結果は、鬼丸のサービス運用を支持するが圧倒的大差を集めていた。
「明日から、このサービス運用を開始します。今、イジメにあっている方は、勇気を出して登録依頼を投げてください。昔、イジメを受けていた人は登録へのハードルは高いですが、客観的に判断できる証拠があれば登録可能です。イジメをしている人への配慮は不要です。あなたは優しいから躊躇することもあるでしょう。でも、あなたのその深い優しさが、新しい被害者を作り出してしまう可能性があります。将来の被害者を増やさないためにも、あなたからの情報をお待ちしています。」
鬼丸が最後に視聴者へメッセージを送り、番組は終了した。
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