その後

鬼丸が立ち上げたサービスは、今では企業や学校での採用や入試での素行調査で活発に使われるようになっていた。現在は90%以上の団体が利用していた。

ここまで一気に普及したのは、星田父の元秘書の遺体と死ぬ前に残した肉声が発見されたことがキッカケとなった。


肉声には、

『恐らく、私は星田先生の指示で殺されるでしょう。その時の為に、鬼丸くん事件の真相をココに残しておきます。動画がアップされた日、私が鬼丸くんの素性や家庭事情などを調べ、鬼丸くんが母子家庭であったこと、貧乏であったことを知った先生は、子供が母親の為にお金を作り、喜ばせるために行った自作自演とする美談にすれば、世論は同情してイジメそのものから目を逸らすことが出来る。そして、名誉毀損と訴えることで同じような事を起こさない為にという体裁も取りつつ、私に噛み付いたバカな子供を懲らしめると言って、法外なお金を請求した。母親には息子の未来を守る為には、この示談書にサインをする方が良いと脅した。


先生はイジメを無くすつもりが無い。それは今回の鬼丸くんの再告発を潰そうとしたことからも明らかだ。


先生と同じように権力を持っている子供たちはイジメを行い、それを圧倒的な力でもみ消す今の社会は、この先もずっと変わらないだろう。もしも、このメッセージが世の中に伝わることがあるのなら、鬼丸くんが母親を無くした辛さも乗り越え、無念を晴らす為に有名お笑い芸人となって、自分の声を大きくするために自分の人生を賭けた、この挑戦をぜひ応援して欲しい。


私は昔、間違った選択をした結果、鬼丸くんの人生を台無しにし、母親という掛け替えのない存在を奪ってしまった。だから私が殺されるのは自業自得だと思っている。


鬼丸くんが提唱しているサービスは恐らく、これまでの日本社会に根付いているイジメという闇を根本から無くすことが出来る可能性を秘めていると感じている。ただ、この成否はこれからを生きる人たちの協力なくしては有りえない。


最後に、鬼丸くん。本当に申し訳なかった。』


というメッセージが残されていた。



鬼丸をイジメていた3人はリストに登録され、就職活動では何処にも採用されず、全員が日本を去り、慣れない海外で苦労しながら何とか生きていると風の噂で聞いている。担任の梨田は、イジメを見て見ぬ振りする教師というレッテルを貼られ、授業をボイコットされ、教師として働き続けることが出来なくなっていた。そして、ノイローゼとなり自殺してしまったと聞いた。当時の校長は、田舎に引きこもり、ひっそりと暮らしていると聞いている。


星田議員は結局、任期までは議員をやっていたが、去年行われた選挙では大敗を喫した。権力も人望も何もかも失った彼は、これまで自分がやってきた悪事を全て公表し、今は元秘書殺害の罪で実刑を受けている。


鬼丸は、イジメを無くすと豪語し、イジメられる側の立場が分かっていたにも関わらず、梨田が自分の再告発のせいで、教え子や親から悪質な嫌がらせを受けた末にノイローゼとなり自殺した事実を知り、自殺のキッカケを作ってしまった責任を取るとして自殺した。



鬼丸の自殺を報じたアナウンサーは、

「イジメは恨みを生む。そして一度、生まれた恨みは何をしても消えることが無く、当事者全員を不幸にするまで続くんだということを今回の件が改めて教えてくれたように感じました。では、どうすれば良いのか?何をしても消えない恨みであるならば、生まないようにするしかない。鬼丸さんが提唱した日本において前例のないサービスが日本からイジメを無くし、最終的には世界からイジメを無くしてくれるものになる事を願います。鬼丸さんのご冥福をお祈りします。」

という言葉で弔った。

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いじめられっ子の復讐 乃木希生 @munetsu

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