密談

星田父は秘書を集めた。

「なんか昔の件で俺のことを糾弾している奴がいるって聞いたんだけど、どんな奴だ?」

「鬼丸っていうお笑い芸人ですが、ご存知ですか?」

「お笑い芸人なんて低レベルな人種、俺が知るわけないだろ。」

「すみません。」

「で、そのお笑い芸人は何て言ってるんだ?」

「先生のご子息にイジメられていた。その証拠となる動画をネットに掲載したが、事実を捏造されてイジメ自体を無かったものにされた。更には、名誉毀損で訴えられ多額の賠償金を払うために母親が無理を強いられ、過労死してしまったと。で、その当時関わった人たちの情報収集とイジメ再発に向けたサービスの立ち上げを行うという内容でした。」

「あー、昔にそういった事があったような気がするな。確か、貧乏家庭のバカ息子がネットに息子の名前を実名で挙げたから訴えてやった件だな。また、同じことをやってるわけか。バカな奴は学ばないな、本当に。」

「ただ、今回は昔と違って今、大人気のお笑い芸人のようでマスコミ各社もファンも彼の主張に耳を傾けている様子です。対応を間違うと、先生の立場が悪くなってしまう可能性もあります。」


秘書は当時、県議会議員だった頃から星田父を支えていた人物だったため、本件について記憶にあった。だからこそ、昔初めて動画を見た時に、『イジメられている』と感じた自分の感覚を多くの人が今、感じているに違いないと予想していた。


しかし、星田父は秘書の心配など意に介していない様子だった。

「俺の立場がこんな些細なことで揺らぐことは無いが、マスコミについて回られるのは色々と面倒だな。早く追い払うにはどうすれば良いかね?」

「イジメ撲滅を訴えている先生が、イジメを隠滅しようとしたという点にマスコミが注目しているのは間違いありません。なので、昔の件に関してもまずは真摯に対応していた点をアピールする事が大事になります。また、先生が主張されている鬼丸くんが自作自演をした動画だと断定した証拠の提示をこの先、求められる可能性が高いと思われます。なので、その証拠も何とか作り出す必要があります。」

「そんな証拠どうやって作る?」

「あの動画は鬼丸くんが誰かに撮らせたものであることは間違いありません。なので、動画撮影者を鬼丸くんより先に今、見つけ出して証言させるしかないでしょう。」

「誰が撮影したのか目星は付いているのか?」

「当時同じクラスだった誰かであると思います。明日までには見つけ出しますので、ご安心ください。」

「分かった。じゃあ、その件は任せた。しっかりと対応してくれよ。」

「かしこまりました。」


秘書は昔と同じように、今回も鬼丸の告発を握りつぶすために画策に走る決意をした。それが日本にとってマイナスな事であると分かっていても。

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