追い風
鬼丸のライブ配信から数時間後、星田父の元にはマスコミが殺到していた。
「星田議員、本日お笑い芸人の鬼丸さんが発表したイジメの件は事実ですか?」
「イジメ撲滅を叫んでいるあなたが過去にイジメを隠蔽したとしたら、大きな問題ですよ。」
マスコミはここぞとばかりに攻め立てていた。
鬼丸の元には、続々と情報が届いていた。
『星田と月野と同じ高校でした。二人とも、虚構大学に進学しているはずです。』
『星田たちは高校時代もイジメしていました。僕は、あいつらのパシリに使われて10万円以上もお金を取られています。』
『空島と今、一緒に働いています。あいつ、昔はそんなヒドい事してたんですね。今の彼からはそんなイメージが湧かないけど、軽蔑しました。あいつは、鬼畜株式会社ってところで働いています。』
『校長は現役引退して、地元で悠々自適に暮らしています。住所は、東京都・・・です。』
『梨田、私の元担任でした。私も昔、イジメられていて相談したけど、俺はイジメられているところを見ていないからとか言われて、何もしてくれませんでした。今は、第二小学校で働いていますよ。』
鬼丸はこんなにも自分の味方がいることが素直に嬉しかった。
と同時に、『影響力がない』だけで本当に辛く困っている人の声はかき消されてしまう社会が悲しくもあった。
「イジメている奴らの多くは何歳になってもイジメを続けている。やっぱり、俺が作ろうとしているシステムは社会の為になる。どんなに一人の声が小さくても、拡声器があれば誰でも大きな声を出すことができる。このシステムは拡声器の役割を担う重要な物になる。」
鬼丸は決意を後押しするかのように、エンジニア達からは『無給で構わないから、ぜひ自分のスキルを社会の為に使いたい』と熱いメッセージが届いていた。
鬼丸はマネージャーに連絡した。
「会社の方は大丈夫そう?俺のライブ配信で迷惑かかってないかな?」
「多少バタバタしていますが、今のところは大丈夫そうです。」
「それは良かった。一つ、お願いしたいことがあるんだけど。」
「なんですか?もしかして、エンジニアからの応募が予想より多すぎて、捌き切れないから助けてくれとか言わないですよね?」
「さすが俺のマネージャーだな。ご察しの通り、エンジニア選考を助けて欲しい。エンジニアのスキルなんて分からないから、どうやって判断すれば良いか分からなくて。」
「そんなの私にだって分からないですよ。」
「うちの事務所のホームページとか作成している人に助けを求められないかな?」
「どうですかね?一応、システム部門には話をしてみますが、あまり期待しないでくださいよ。私、システム部門に知り合いいないんで。」
「いや、マネージャーなら大丈夫だよ。期待してる。」
「分かりました。今、会社にいるので頼んでみますよ。すぐに折り返しますね。」
「ありがとう。」
数分後、マネージャーから折り返しの電話が入った。
「鬼丸さん、聞いてきましたよ。」
「どうだった?協力してくれるって?」
「ええ、どうもシステム部門のトップが昔、イジメにあっていたようで鬼丸さんの気持ちは痛いほど分かるから全力で協力するって鼻息荒く握手されましたよ。」
「良かった。じゃあ、30分後くらいに会社に着くから、その人に会社にいてもらうようにお願いしておいて。」
「分かりました。」
鬼丸は電話を切ると急いで事務所に向かった。
そして、マネージャーからシステム担当者を紹介してもらい、その人にプロジェクトマネージャー(PM)を任せることに決まった。
鬼丸は早速、PMから言われた通りにエンジニアの募集条件と受付先のリンクを書いて応募を募った。
「鬼丸さん、今ちょっと良いですか?」
「どうしたの?そんなに息切らして。」
「続々とイジメに関する特集をするから出演してくれないかと依頼が殺到しています。」
「本当に??スケジュール調整が可能な限り、全部出演するよ。」
「分かりました。では、可能な限り出演OKで進めますね。鬼丸さん、日本からイジメ無くしましょうね!」
マネージャーは大きなガッツポーズをしたと思ったら、あっという間に走り去っていった。
「鬼丸さん、追い風が吹き始めましたね。」
PMが満面の笑みを浮かべていた。
「そうですね。」
鬼丸は作り笑いを浮かべ、席を立った。
『8年前の俺に、今の影響力があれば母親が死ぬ事も無かったはず。』
鬼丸は今がうまく行けば行くほど、過去の自分の無力さを悔やんでいた。
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