逆襲
「星田先生、ご子息の件で至急対処すべき事案が出ております。」
星田正人の父親は県議会議員で教育業界に対して絶大な権力を持っていた。
「どうした、至急とは何があった?」
星田正人の父は、秘書の普段とは違う様子に困惑した。
「正人さんがクラスメイトを暴行している動画が実名と顔と共に拡散しています。」
「何だって?どんな動画だ。」
秘書は持っていたタブレットで鬼丸が投稿した動画を見せた。
「誰だ、この鬼丸とかいう奴は。」
「正人さんのクラスメイトのようです。」
「急いで家に帰って正人と話をする。そのあとに今後の対応を考える。お前は、この鬼丸の家庭環境などを至急、調べろ。」
「わかりました。」
秘書に指示を出した正人父は、家へと急いだ。
家に帰るなり、父親は正人を呼びつけた。
「おい、正人。お前、鬼丸とかいうクラスメイトをイジメているのか?」
「え?何なの、いきなり。」
「良いから答えなさい。お前はクラスメイトをイジメているのか?」
「イジメなんてしてないよ。」
「じゃあ、この動画はどういうことだ?」
父親は正人が鬼丸を例の動画を見せた。
「何この動画。誰がいつ撮ったんだろ?」
「この動画を見てもまだイジメはしていないと言うのか?正直に言いなさい、怒らないから。」
父親は優しい口調で正人を問い詰めた。
「イジメてなんてないよ、この時はちょっとした喧嘩になったけど、イジメてたつもりはないよ。」
正人は怒られるのが嫌だったので嘘をついた。しかし、父親は正人が嘘をついているのが分かっていた。
「そうだよな。お前がイジメなんてするはずないよな。お父さんはお前のことを信じる。」
父親はそう言うと正人の頭を撫でて部屋に行っているように伝えた。
鬼丸の家庭に関して調査をしていた秘書が調べ物を終えて、家に資料を持ってきた。
「先生、鬼丸という同級生について調べてきました。」
「どんなやつだ?」
「はい、親は片親で母子家庭で育っております。兄弟はなく、母親とふたり暮らしです。母親は朝から晩まで働きづめで、それでも生活はカツカツのようです。鬼丸という少年は、大人しい性格のようで特に問題を起こすようなタイプでもなく、成績も普通です。どこにでもいる少年ですね。」
「なるほど。この件はじゃあ、こういう筋書きにして火消しをしよう。
『まず、正人が鬼丸をイジメていたという事実はない。この動画は家庭が貧しい鬼丸という息子が母親に贅沢をさせたいと思って、SNSを使って注目を集めるために行なった。正人は、鬼丸という子に無理やり暴行するように指示されて仕方なくやった。最初は殴るフリで済まそうと思ったけれど、本気で殴らないとリアリティが無いと鬼丸くんが言ってきたから仕方なく殴った。正人が殴る役に選ばれたのは、私が県議会議員なので世間やマスコミの注目を集められると思ったから。ただ、実際に殴ったことで鬼丸くんに怪我をさせてしまったことは事実だから、治療費を払うことにした。』
これで、どうだろう?」
「はい、それで問題ないと思います。今から、校長にはそのように伝えておきます。」
「あぁ、よろしく頼む。」
秘書は正人父の言った筋書きを校長へと伝えた。
「おい、正人、下に降りてきなさい。」
父親に呼ばれた正人は、ビクビクしながらリビングに降りてきた。
「正人、さっきの動画だが、本当はこういう事なんだとお父さんは思うんだが、確認してもらって良いか?」
「うん。」
父親は先ほど秘書に話した筋書きを正人に話した。
「こういう事だったんだろ。無理やり殴らされて辛かったな、校長先生にもさっき言ったことを伝えておいたから。明日、もしかしたら職員室に呼ばれるかもしれないけど、お前は決して悪くないからな。もし、お前が悪いみたいなことを言われたら、すぐにお父さんに知らせなさい。」
「うん、ありがとう。お父さん。」
この瞬間、加害者だった星田正人が被害者となり、被害者であった鬼丸が加害者になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます