追い打ち
鬼丸を強制的に自宅へ帰したあと、校長、担任の梨田、そして県議会議員の星田父の3人はマスコミが食いつく前に、先手を打ち動画の内容についての説明を行うことにしていた。
その前に生徒に説明をしておく必要があると考えた3人は、朝一に緊急朝礼を開催した。まず、鬼丸が投稿した動画を生徒全員に見せたあと、校長が生徒に向けて説明をした。
「この動画を見た生徒の中にはイジメがあると思った人がいると思います。しかし、これはとある生徒が自分の身勝手な欲望を叶える為に作成した自作行為であることが分かりました。投稿には、暴力を振るっている3人の実名も書かれていますが、彼らはイジメはしていないと言っています。無理やり暴力を振るうことを強制されて、イヤイヤやらされた行動です。私からしたら、彼らの方がイジメにあった被害者ではないかとさえ思っています。この件を、テレビなどがイジメがあったというように報道される可能性は0ではありませんが、その内容が嘘です。絶対に信じないようにしてください。また、皆さんに事前注意しておきます。こういった動画を投稿すると先生たちや保護者の方々など多くの大人が迷惑を被ります。この学校にイジメは無いと信じておりますが、もしもイジメにあってしまっている人がいたとしても、絶対にネット上に投稿するのではなく、まずは担任の先生に相談してください。先生たちは生徒の味方です。これだけは必ず約束しますので、ぜひ信じてください。」
緊急朝礼を行ったあと、生徒の親に向け『動画は事実ではなく、生徒が有名になりお金を稼ぐために行ったイタズラである』という内容で一斉送信を行った。
そして、午後1時に緊急記者会見を開いた。学校側の出席者として、校長と担任、そして星田父の3人が出席した。
校長が朝礼で生徒に話した内容と同じことを記者にも向けて話し、イジメの事実はないことを強調した。それに続けて、星田父が、
「私の息子が無理矢理とはいえ、この生徒さんに対して実際に暴力を振るってしまっている事は事実であります。そこは親として、どんな理由であれ人に暴力を振るうことは許されないとキツく言ってきたつもりであったが、伝わっていなかった。なので、この点に関しては、深くお詫びを申し上げたいと共に、怪我をしている場合は治療費も出させてもらうつもりでいる。一方で、うちの息子を含む3人の同級生をイジメの加害者であるように伝えている生徒さんの対しては、名誉毀損などの措置を含めて、民事訴訟をするつもりであることもお伝えしておきます。子供のやったことではあるけれど、子供だからこそ人に迷惑をかけると、自分自身にも罰が与えられるということを今のうちに教えておくことも大事であると思い、こういった措置を取ることにしました。」
マスコミが憶測などで騒ぎ出す前に学校側が先手を打ったことで、マスコミの追求は『イジメがあったかどうか』という観点ではなく、『小学生がネットを悪用してお金稼ぐ』という点の是非に論点がずれた。また、星田父が息子の暴力自体は否定せず、治療費を出す、子供であっても名誉毀損で訴えるという対応を行うことを明言した事に対して、ネット上では賛否両論があったが、『その子の将来を考えたら、しっかりと子供の頃に教育しておくことが大事だ』という賛成意見の方が多くなっていた。
ただイジメの事実を多くの人に知ってもらい、イジメを無くしたかっただけのつもりで投稿した動画は、鬼丸の願いとは裏腹に一番大切で迷惑を掛けたくなかった母親に迷惑をかける最悪の形になって自分に返ってくる結果になってしまった。
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