友人の覚悟

田中は秘書からの脅しにも屈することなく、子供の頃に抱いた後悔を二度としないという自分の信念に従った。

部屋から出た足で、鬼丸へ連絡を取り会う約束を取り付けた。


「鬼丸くん、久しぶり。俺のことを覚えてくれている?」

「田中くんだろ、覚えているよ。」

「今更だけど、昔、君のことを助けられたのは俺しかいなかったのに、勇気が出なくて、自分が可愛くて、君を助けず本当に申し訳ない。君のお母さんが亡くなったのは俺のせいだ。」

田中は鬼丸と会うなり心からの謝罪と土下座をした。


鬼丸は、田中のことを抱きしめながら、

「田中くんは何も悪くないよ。君が昔、僕の言う通りに動画を撮影してくれたから、今も彼らと戦う武器を手に入れられたんだ。それに、田中くんには迷惑を掛けないと約束したのに、結果として今までずっと消えない苦しみを与えてしまった。ごめん。」

鬼丸は逆に田中に謝罪した。


それから暫くは雑談をしながら、田中が本題を切り出した。

「実はさっきまで、星田の親父の秘書と会ってたんだ。そこで、あの動画が鬼丸くんの『自作自演』であるという証人になれという脅しを受けた。」

「脅しだって?本当に何も変わってないな、あいつらは。田中くん、脅されたって大丈夫?」

「多分、大丈夫だよ。それにもし、何かあったとしても俺は、脅しに屈しないから。今日、突然会おうって言ったのは、これを渡したかったからなんだ。」


田中はそう言うとポケットからICレコーダーを取り出して、再生ボタンを押した。するとICレコーダーから流れて来た音声には、田中と秘書の先ほどのやり取りが録音されていた。


「秘書から呼び出しをされた時、間違いなく動画の件だと分かったから仕込んでおいたんだ。持ち物検査をされるかと思っていたら、何も確認されなかったからラッキーだったよ。これをぜひ、鬼丸くんの新しい武器として使ってくれ。」

田中は鬼丸にICレコーダーを手渡した。

「これは、田中くんを守る武器にもなるはずだろ?君が持っていた方がいいんじゃないのか??」

鬼丸は田中に返そうとしたが、頑なに受け取らなかった。

「これは俺なりの罪滅ぼしなんだ。俺のことはどうにでもなるから心配しなくて大丈夫だ。ありがとう。」


鬼丸は、田中が自分の将来を犠牲にする覚悟を持って手に入れた武器を使い、早速、ゲリラ配信を行い、田中が手に入れた音声を公開し、星田議員が脅しを掛けてきたことを世の中へと発信した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る