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今の季節でしか、こんなに綺麗な緑は見れないだろう。

切り立った崖の武骨な造形にすっかり心を奪われてしまったのだから、撮るなら崖の一択だ。



この砂浜から崖まで大分距離があるというのに、その佇まいに圧倒される。


より良い写真を撮ろうと、アングルを固めてからスマホを構えた。


「ん?」


スマホに映された崖の先端に、何かが見える。

米粒ほどの大きさではあるが、黒い頭は見えたので人間だと分かった。


(あんなところに人なんていたっけ。)


と疑問に思って眺めていると、その人は一歩二歩と歩いてそのまま海へと身を投げた。


驚いた衝撃で指が画面に触れてしまい、シャッターをきってしまった。



「え!う、嘘だ!」



スマホを顔の前から外すが、崖はおろか、海面にも人がいる気配はない。

かわりにウミネコが波に揺られながら「ニャー」と鳴いていた。



(鳥が飛んだのを見間違えたのか…良かった。)



ほっと一息つく。



(そうだ、写真撮っちゃったな。ちゃんと撮れているといいけど。ぶれてるかな。)



画像ファイルから写真を見つけてタップする。


読み込み画面が表示されて数秒後、パッと写真が映し出された。



「…うわ!」



その写真に写るものに、思わず悲鳴を上げた。


崖は綺麗に写っている。


ただ、問題はその手前だ。



半透明の女性の顔が目から上だけ映りこんでいた。


その無表情だが、こちらを睨みつけるような瞳に捉えられ体が硬直し動けない。




沖からぶわっと風が吹いたかと思うと、耳元で声がした。



「見てたぁ?しってるよ。ははははは。」



感情のこもっていない、甲高い女の声が、頭の中で反響した。





【END 崖から落ちたのは】

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