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気心の知れた友人Aに、海自慢の写真を送れば、何か面白い返信が来るかもしれない。
そのためには、この透明度が高く美しい海をいっぱいに映した写真を撮るのが一番いい。
海の青さが引き立つように、少しだけ砂浜が入るようにしてシャッターをきった。
(きっとあいつ、羨ましがるな。)
Aの反応が待ち遠しくて、ろくに確認もせずにSNSのチャットへ写真を送った。
『すごい綺麗な海!羨ましい?』
と自慢するのも忘れずに。
送信できたのを確認して、満足げに海を眺めた。
それにしても綺麗でほれぼれとしてしまう。
このまま泳いでいきたいぐらいだ。
バイブレーションが振動し、Aが返信したことを通知した。
どんなコメントが返ってきたかと、わくわくしながら画面を開く。
「は?」
通知に表示された文章に、思わず顔をしかめた。
通知画面にはAの名前と、その横にコメントが表示されているのだが、その内容は文章だけでも苛立ちが伝わってくる乱暴な言葉遣いだった。
『なんだよその写真。からかうのもいい加減にしろ。』
相手の都合も考えず送ってしまったのは悪かったが、そこまできつい言い方をする必要はあるだろうか。
(イラついているのか?それにしても、この言い方は酷い…。)
続けてまた返信が来た。
『さっさと写真消せ。見たくもない。』
流石にカチンときて、一言言ってやろうとSNSを開く。
「え…?」
チャットのやりとりが表示され、思わず目を疑った。
そこには確かに、自分が送った写真とコメントが残っているが、その内容がおかしい。
日光に照らされた輝く海を撮ったはずなのに、チャットに送られた写真には全体的に暗く淀んだ海が映されている。
その海面からは無数の白い腕が生えていた。
コメントも文章が変わっている。
ただ海を自慢しただけの文を書いたはずなのに、全く違うものが送られていた。
それは、こんな文章だった。
『それ ぜんぶ わたしの て だよ』
すぐさま写真を消して、『ごめん。』とだけ送り、その場から立ち去った。
この日の出来事をきっかけにして、地元はおろか他県であっても海に行くことはなくなった。
【END 海面から伸びる手】
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