25



いくら思いがこもっていたとしても、その思いを読み取って持ち主を探し出せるわけではない。


ここまでボロボロなのだから、きっとどこからか流れ着いてしまったのだろう。



警察もただ困ってしまうだけだ。



(自分には関係ないや。)



と、それを投げ捨てた。


結構あるいて探したが、シーグラスはおろか貝殻さえも見つからない。



そろそろ時間もいい頃だ。



お腹も空いてきたし、帰ってご飯を食べよう。



曲げていた腰をぐっと反らして天を仰ぐ。





「あのぉ。」




背後から声を掛けられた。



「え?」



振り向くとそこには、赤いワンピースを着た女性が立っていた。



手入れしていないのか、明るい茶髪は根元から黒くなり、いわゆるプリンのようになってしまっている。


目は二重で大きく見開かれ、目玉が零れ落ちそうだ。


赤いルージュをべったりと塗った唇をくーっと釣り上げて笑いながら、右手で指輪の方をさしている。



「それ、わたしのなんです。拾ってくださいよ。」


感情のこもっていない、平坦な声だ。



「え?ああ、すみません。」



少し不気味に思ったが、大切な指輪を投げられれば、顔が引きつってしまうもんだろうと納得させ、今しがた投げ捨てた指輪を拾い上げた。



「すみませんでした。」

「いえ…。ふふ…。ありがとうございます。」



彼女に渡そうと手を差し出し、目を見開いた。


自分の手の中にあったのは、指輪ではない。


真っ赤なマニキュアが爪に塗られた、1本の指だった。



「これ…これよ…!」



女性は嬉しそうに笑いながら、両手を伸ばす。

その左手には、薬指がなかった。



「うわあ!」



思わず手を離し、指を落としてしまった。

そのまま逃げた。



階段を駆け上り、流石に悪いことをしてしまったと振り返った。




女性は地面にしゃがみこんで指を拾い上げ、くるっと振り返り、にたあっと笑った。




【END それの持ち主】

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