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いくら思いがこもっていたとしても、その思いを読み取って持ち主を探し出せるわけではない。
ここまでボロボロなのだから、きっとどこからか流れ着いてしまったのだろう。
警察もただ困ってしまうだけだ。
(自分には関係ないや。)
と、それを投げ捨てた。
結構あるいて探したが、シーグラスはおろか貝殻さえも見つからない。
そろそろ時間もいい頃だ。
お腹も空いてきたし、帰ってご飯を食べよう。
曲げていた腰をぐっと反らして天を仰ぐ。
「あのぉ。」
背後から声を掛けられた。
「え?」
振り向くとそこには、赤いワンピースを着た女性が立っていた。
手入れしていないのか、明るい茶髪は根元から黒くなり、いわゆるプリンのようになってしまっている。
目は二重で大きく見開かれ、目玉が零れ落ちそうだ。
赤いルージュをべったりと塗った唇をくーっと釣り上げて笑いながら、右手で指輪の方をさしている。
「それ、わたしのなんです。拾ってくださいよ。」
感情のこもっていない、平坦な声だ。
「え?ああ、すみません。」
少し不気味に思ったが、大切な指輪を投げられれば、顔が引きつってしまうもんだろうと納得させ、今しがた投げ捨てた指輪を拾い上げた。
「すみませんでした。」
「いえ…。ふふ…。ありがとうございます。」
彼女に渡そうと手を差し出し、目を見開いた。
自分の手の中にあったのは、指輪ではない。
真っ赤なマニキュアが爪に塗られた、1本の指だった。
「これ…これよ…!」
女性は嬉しそうに笑いながら、両手を伸ばす。
その左手には、薬指がなかった。
「うわあ!」
思わず手を離し、指を落としてしまった。
そのまま逃げた。
階段を駆け上り、流石に悪いことをしてしまったと振り返った。
女性は地面にしゃがみこんで指を拾い上げ、くるっと振り返り、にたあっと笑った。
【END それの持ち主】
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