5



いくら汚れているとはいえ婚約指輪だ。

ただ流れ着いたものかもしれないが、少しでも誰かが探している可能性があるならば放っておくわけにはいかない。



指輪をポッケに押し込んだ。



忘れないうちに交番に届けようと振り向いて、最初に見つけたメッセージボトルが目についた。



字なんてもう読めないと分かっているのに、妙に気になって仕方がない。



(思い出ぐらいにはなるか。)とメッセージボトルも拾って持ち帰ることにした。




警察に届けようと道中にある小さな白い交番に寄った。



しかし、珍しいことに人もいなければ鍵がかかっていて中に入ることが出来ない。



落とし物届を書こうとしたがこれでは書くことが出来ない。



(仕方ない。明日また持ってこよう。)



諦めて帰ることにした。



ダイヤのはまった指輪をポッケに隠し持ち交番の前を通り過ぎるのは、なんだか盗みを働いているみたいで気分のいいものではない。



悪いことをしていないのに、委縮してしまう。


家に帰ってようやく息をつくことができた。



メッセージボトルを机に置き、指輪は無くさぬよう鍵と一緒にカゴに入れた。


少し遅めの昼食にと冷凍うどんを電子レンジで温めながら、去年結婚した男友達を思い出した。


なれそめを聞いても照れてはぐらかし、唯一言ったのは「婚約指輪、めちゃくちゃ高くてさ。」という愚痴。


どんなデザインがいいか、どうやって渡したらいいか真剣に悩んでいたのを知っているから、そんな愚痴は惚気にしか聞こえなかった。



(見つかると良いな。明日絶対交番に届けないと。)


籠の中にある指輪を眺めながら、うどんをすすった。




普段運動をしないくせに散歩をして、うどんをお腹いっぱい食べたせいか、突然眠気に襲われた。


せめてシャワーだけでも浴びないと、と必死に目を覚まそうとするが、すぐにふっと意識がとんでしまう。


(あ、だめだ。少し寝よう…。)



と寝どこまでなんとか歩き、そのまま倒れて寝てしまった。





「ん…。」


ふと目が覚めた。


時計を見れば、夜の11時。


あれから10時間も寝てしまったことに驚いた。


仮眠であっても変な時間に寝るものではない。

こうして夜中に目が覚めてしまうのだから。


(トイレに行こうかな。)


と体を起こそうとした。


が、動かすことが出来ない。



(え?な、なんで!?)


パニックに陥り必死に体を動かそうとするがびくともしない。



(か、金縛り…か?)


初めてのことで混乱はしたが、まずは落ち着こうと深呼吸する。


頭が冷え、状況が冷静に見えた。


ふと、視界の端に何かが見える。

目だけを動かして見れば、それは人間の足だった。


枕元に、誰かが立っている。


(だ、誰…?)


ゆっくりと見上げて顔が見えた。



原型が分からぬほど腫れあがった男の顔がそこにあった。

体からは水がぴちゃぴちゃとしたたり落ちている。


その形相に、意識を失った。




→7

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