28



木一さんから託された指輪とガラス瓶を持って向かったのは商店街。


シャッターが下ろされた店の中、唯一営業している店の前で立ち止まった。


「よかった…。やってる。」


少し錆びれた看板には山内クリーニングの文字。


ちらっと覗くと、40代ぐらいの女性が洋服をたたんでいるのが見えた。



ガラス戸を横に引いて中に入る。


「あら、いらっしゃいませ!」


にこっと笑った彼女は、手に服を持っていないの確認すると、


「受け取りですか?」

と尋ねてきた。


「あ、い、いえ。違います。実は、お聞きしたいことがありまして。」

「は、はあ。何でしょうか。」

「実は、人を探していまして。山内楓さんをご存じですか?」

「え?あ、それは私のことですが…。」

「え!本当ですか!」


突然声を上げてしまったせいで、楓さんは驚いていた。


「あ、えっとすみません。実はある方からこれを渡してほしいと…。」

「渡す?」


ポッケにしまっていた婚約指輪を取り出してカウンターに置いた。

それを手に取った楓さんの目が赤く充血する。


「誰から、ですか?」


震えた声で尋ねる楓さん。


「木一寛太さんです。」


その名前を聞いた途端、楓さんは大粒の涙を流し泣き出した。



突然のことに驚いておろおろとしていると、彼女はティッシュで涙を拭いながら、「ちょっと待ってくださいね。」とcloseの札を外にかけ、奥の部屋へと案内してくれた。







「ごめんなさいね。恥ずかしいわ。」

「い、いえ。…あの、木一さんとはどのようなご関係で?」

「恋人…でした。20年前の話ですけど。」


楓さんは、木一さんのことを教えてくれた。



家がクリーニング屋を営んでいるということで、

親と一緒に木一さんがお客さんとしてくるので、

にいつの間にか好意を抱くようになったそう。


高校生になった木一さんから告白されて交際が始まった。


大学に進学し、ヨットサークルに入った木一さんは本格的に競技として取り組むように。


『今度の大会、優勝したらプロポーズする。だから、応援してほしい。』


そう言って、木一さんは20年前、とあるヨットの大会に出場した。


が、突然天候が悪化し、木一さんの乗るヨットは操縦が困難に。

楓さんの目の前で木一さんはヨットと一緒に沈んでしまった。


彼が発見されたのは数か月後のこと。

海面に浮かんでいるところを漁師に発見された。


そのことがトラウマで、楓さんは今も独身だそうだ。





「とりみだして、ごめんなさいね。

ともかく、届けてくださりありがとうございました。

…あれ?これ、木一さんからって言いましたよね?彼はもう死んだはず…。

一体、どういうことですか?」

「実は、浜辺にメッセージボトルが流れ着いていて、その中に紙と指輪が…。」


とガラス瓶を見せた。


「あ、それ…。彼が好きだった飴の瓶です。ほら、駄菓子屋でよく売ってた。大会当日、お守りとしてプレゼントしたんです。」

「そうだったんですね…。」

「中の紙にはなんて?」

「あ、はい。紙にはB県C郡に住む山内楓さんに渡してほしいとありました。」

「見てもいいですか?」

「どうぞ。楓さんに渡そうと持ってきたので。」



楓さんが蓋を開けた。

そして、中の紙をそっと取り出す。


が、その紙は外に出た瞬間、ぼろっと崩れてしまった。


茶色く変色した紙は、触れば触るほどぼろぼろに崩れていって、とうとう塵になってしまった。



「あ、すみません。」

「いいんですよ。あなたのせいではないです。あれから何十年も経っていれば、劣化してしまいますよね。じゃあ、瓶だけでもいただきます。わざわざありがとうございました。」


楓さんに見送られて、その日は帰った。






お店なのに手ぶらで行ってしまったのが申し訳なくて、別の日に改めてお客として足を運んだ。


それからちょくちょくクリーニング店を利用するようになった。





ある日、自宅に1枚の葉書が届いた。



差出人は、楓さんだった。


その葉書には、白無垢姿の楓さんと彼女に寄りそう優しそうな男性の写真が貼られ、結婚しましたと直筆で書かれていた。





【真END 時を越えて】



あとがき→18

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