19



それは半透明でぶよぶよしたクラゲ。


見た目からしてミズクラゲだろう。


どうせ刺されやしないとまとわせたままにさせる。



子供の頃はこれを千切って遊んでいた。

残酷なことをよく面白がってやってたもんだと鼻で笑う。



懐かしくなって少し触ってみようと手を伸ばした。


が、その瞬間。


クラゲだと思っていたそれは足首から離れたかと思うと、海面にぐっと飛び出して、手首をつかんできた。

その時初めて分かったが、それはクラゲではなかった。

半透明の人間の手だ。


手は、そのまま強く海中へと引っ張っていく。


前屈し不安定な姿勢のため、その力に抗うことも出来ず、そのまま引き倒されてしまった。



「ぐっ!」


必死に海中の砂を掴んで抵抗するが、全く歯が立たない。


どんどんと浅瀬から身体が離れ、より深く引き込まれていく。

とうとう全身が海中へと引きずり込まれてしまった。


必死に息を止めていたが、限界が来てぼわあっと泡を吐き出す。


肺が空気を求めて収縮し、鼻と口から海水が流れ込んだ。



ツンとする痛みと息が出来ない苦しさに悶える自分の耳元で、女の声が囁いた。



「わたしと代わって溺れてよ…。」



その声が言い終わらないうちに、意識は薄れ、途切れた。




【END 身がわり】

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