砂糖吐きそうなラブコメ読みたい

 買ったものは、次の日までに届けてれくれるということで布団だけ(恵憂はベッドではなく布団派らしい)車に詰め込んで

「夕飯、なにがいい?」

 軽い話題を振ったはずなのに

「ゆっゆう、夕飯ですか? 作ります!」

 なぜにどもるのかわからん。

「いや、食材ない。いつもルームサービスにお願いしてる」

 ほいっと今日のメニューを渡すと、横にいてよく分かる。「これめっちゃ期待してるな-」っていうのが伝わってくるね。でも真尋のそんな一挙手一投足が嬉しかった。

 

 最終的に30分悩んで

「私、ビーフシチュー食べるの初めてなんです! 他にも食べたことないお料理もあったんですけど……。あこがれかな」

 真尋はポロポロと瞳からこぼして、

「今は泣いている時じゃないですよね……。ごめんなさい」

 必死に次から次へと溢れる涙を拭っている真尋を、そのままに、立ち上がって後ろから抱きしめた。

「せっ先生、セクハラですよ?」

 そんなのお構いなしにもっと力を強くして

「泣くことは悪いことじゃないんだよ。

 もっと泣いて、笑って、機嫌よく、機嫌悪く……いろんな真尋を見せてくれていいから。俺はちゃんとそんな真尋を受け止めるから。だから……信じろ」

「……う……うん……私、信じるよ先生のこと」


 飯も食べた、次に問題になるのは風呂だろうと予測していた。だってどっちかが残り湯に入るんだぜ? 女の子的にどう考えているのか

「ねぇ真尋」

 ビックと反応して

「は、はい」

 何を緊張しているのかは薄々わかっているけど

「シャワー派? 浴槽派?」

「しゃ、シャワーだけで大丈です!」

 素直じゃないねぇ。

「シャワーも浴槽もかかる金は同じだよ?」

 しばし

「私が入った後に先生が入るんですか?」

「どっちがいい?」

 ……

「先生が先でお願いします」

「りょーかい」

ちょうどよく湯が浴槽に溜まったメロディが流れたので、着替えを用意して風呂に入った

 浴槽に浸かるのっていつ以来だろ? なんてどうでもいいこと考えていたのに、不意に風呂の電気が消えた。かなり暗い。停電か?


「お……お邪魔します」

 緊張でガチガチな声が聞こえ、真尋が入ってきて…………いや!これはダメでしょ。

 その姿はさながら月に帰るかぐや姫のように美しくて……。


現在俺は浴槽。真尋がドアを閉めた。

「すっす少しでもお礼をさせてください」

 緊張5秒

 ブチギレた俺7秒

「ざけんな! 真尋、俺が「いつ」「どこで」「誰が」「そんなことを」頼んだ! 言ってみろ!」

「誰も……言ってないです」

 困惑してる真尋の姿が悲しくて、頭にきていたことが、さらに真尋を傷つけていることに気がついてしまった。この娘はそう「報酬には代価」が当たり前の世界に住んでいたから。これは大人の常識で子供には適用されるべきではない。

「ごめん。声を荒げすぎた」

「ううん。気にしてません。男女には相性がありますから。私は”先生”の好みじゃなかった。

ただそれだけです」

「ごめん、やっぱり怒る。真尋、お前は『女の子として自分の価値』をさげることをしたら許してもらえる。さらに深く言えば、許してもらえば『私という個体』は存在していい。それに囚われているだけだ」

 ぴたっと真尋の体全体がと動きをやめた。

 そうこれは図星を疲れた人間特有の反応だ。

 そして真尋はひっくっひくと、過呼吸気味に泣いている。でも、俺は手を貸さない。手を貸してしまえば、もしこの家を飛び出していっても……明るい未来は望めないだろう。


 それほどまでに彼女の心に根ざした問題の暗い。


はぁーとため息ついて、

「バスタオルつけたまま浴槽入れ、お説教の時間だ」

2人して無言。果たしてこれはどういうプレイなのか……。最後には首が胴体と離れヤンデレ系ヒロインが顔を優しく撫でる……ってねーよ。

「ねっねぇ先生。これだと体のラインがわかっちゃって恥ずかしいよ……」

あ……せっ先生。やっぱり……」

「だから違う!」

 ビックと反応して……俺にはそれが別の意味で気になった。

「真尋、虐待? いじめ? どっち?」

真尋もはぁーとため息ついて

「両方です」


 物心ついたときには、もう施設の職員さんにたくさん叩かれました。

 怖くてたくさん泣きました。

 

 勉強もできなくて、みんなの役割分担の輪に入ることができなくて

 そんな私に同じ施設に預けられている人たちにいじめ……ですね。

 大小一杯ありました。直接的な暴力も。教科書燃やされたこともありました。火気厳禁なので私のせいになりました。

 誰も私の言葉を信じてくれませんでした。それが悲しくてたくさん泣きました。

 

 そんなことが嫌で、施設を飛び出して一人暮らしを始めました。

 やっと静かになったのに孤独感で押しつぶされました


 でもそんな私を救ってくれたから……。先生のこと信じられるようになりました。

 だから、だから……


「よく喋ってくれたね。悲しい話で胸が痛いけど、それと同時に嬉しくもあるよ」

「嬉しい?」

 キョトンとした反応で

「だってそんな深い話できる人なんて少ないでしょ?」


 真尋は顔を水に沈め隠そうとしてる。まだまだ甘えたりないのは、しっかりと真尋の指と俺の指を”恋人つなぎ”みたいにしているところから見え見えだ。


「真尋、俺は目をつむっているから背中を俺の方に向けるように動いて」

 そして俺は本当に目をつむった。

 なんらかの葛藤があったのだろう、3分ほど待たされて

「先生、いいよ」

 その言葉を聞いて、目を開けると両肩あたりのきれいな背中が見えた。さすが10代、肌がきめ細かい。真尋は出来得る限り肌を隠そうとしたのだろう。俺としては裸だろうがバスタオルだろいうが関係ないんだけどなぁ。真尋が酷く緊張してるのがよく分かる。それくらい当たり前だし、なにより雰囲気でわかった。

 その背中越しに「怖がらせないように優しく」「今まで足りなかった愛情を注ぐように」「なにより真尋恵憂にも幸せになってもいいことを」すべてを感じてもらえるようにぎゅっと抱きしめた。そんな時間はどれくらい経ったのかわからない。


「ねぇ先生。抱きしめてくれるのはすごい嬉しい……だから前からぎゅっと抱きしめてほしい」

 それは真尋からの初めてのお願いだった。教師と生徒でそれは許せない。でももう許されない地点まで来てしまっていて、なにより真尋のお願いを聞いてあげたくなったから

「こっちむいて」

 優しさを込めて

「先生、目をつむって」

 真っ暗な中、水の雫と湯を揺らす音だけが全てで

「いいよ」

っと言われて、目を開けると、湯で温まって上気した色の頬。ぱっちり開いた瞳は少し潤んでいて本当にキレイだった。ゆっくりゆっくり怖がらせないように静かに抱きしめられた。

「恥ずかしいよぉ」

「こんな細くてかわいくて苦労してるのに満たされない世の中が間違ってるんだよ」

「かわいい?」

「かわいいよ。あくまで娘として、だけど」

 肩に少し力を入れられて、少しツルッと滑ったタイミング(絶対真尋の罠)でくちびるに温かいなにかが触れたことは言及すべきではない、という結論を出した。

「先生のエッチ」

 赤みがかった顔で言われてもねぇ。年相応のかわいさあるからよかった。

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