ビールの美味さがわからん

 来週から学校が始まるということで相談しなければいけないことがある。

「ねえ真尋。今まで昼飯ってどうしてた?」

 あんまり言いたくなさそうに

「そんなお金なかったから屋上で風にあたってた。雨の日は特に辛かったなぁ」

 まったく……世の中狂ってるよ。

「お小遣い制にしようと思うんだけど、いくら欲しい?」

「それを決めるのは私じゃなくて先生だと思うんですけど……」

「じゃあ俺が1000円って言って、せ……」

「わかりました! 一緒に考えます!」

 生臭い話題を振ったら案の定だった。

「まず昼飯代。俺は作りたくないし、食材も買いたくないので学食にしてくれ。うちの学食安くて美味いらしいぞ」

「知ってます。クラスの女の子がよく話題にしてるのを聞いてました」

 その輪の中に入れなかったんだろう。

「じゃあとりあえず2万円でいいか」

 真尋は少し考えてから、こくっと頷いたので話を続ける。

「真尋。学校楽しめよ。今ならできるだろ?」


 俺たちはあのことを明確に避けて話をしていた。


 その日の夜。というか真夜中、午前3時。

 今日もその日だった。がちゃっとドアが開く音がして、真尋が入ってきて俺をゆさゆさ揺すってきた。黙って布団を半分譲ると、こてんと布団に潜り込んできて……目があった。そして自然に……本当に自然にくちびるを重ね合わせてきた。もう俺たちは教師と生徒という関係だけでは収まらなくなってしまった。そのことを後悔する日が来るのかは……まだわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る