引っ越ししたい
学生が本当に嫌な顔する、そんな夏休み明け。当然俺と真尋が一緒に登校なんてできないわけで、というか生徒より教師のほうが早く行かなければいけないので、朝飯を一緒に食べて俺は先に家を出た。
実にめんどくさいことに夏休み明けから学園祭の準備に入らなければいけない。生徒は楽しみなんだろうが、教師にとっては楽しくもないイベントだ。なにが自主性だよ……子供だけで成立するイベントなんてあったら学校に来る必要ないね。まぁうちの学校は本当に「自主性」を掲げてるので……教師への負担が半端ない。新入りの俺は先輩教師にすべてぶん投げるつもりだったけど、担任だからなぁ……。せめて自分のクラスだけでもまわさせねば。やだなぁめんどくさい。残業増えるな……。
ところで俺の担当は数学なんだが……もう補習生がぼちぼち決まりかけてきて、ていうか赤点生が増えてきて、数学主任に呼び出されたよ。俺……悪くないのに……。つーか今9月だろ? なんで赤点生が出てくるんだよ。テストを見たけどめっちゃ簡単だったぞ。この学校バカばっかりだな。
んなこと考えながら廊下を歩いて、担当のクラスのドアを開ければ……入学式とは違ってちゃんと全員揃っていて安心した。それは真尋がこっそり手を振ってきて嬉しそうにしている姿が主な理由なんだろうなぁ。
夏休み明けの授業……強制抜き打ちテスト実施で生徒を絶望させて、淡々と終業まで過ごし……だいぶヘイトを集めたことを実感しながら採点をするために残業していた。家では真尋が待ってるし、早く帰りたいんだけど……と思ってたらスマホがぶるっと震えて、メッセージが来たことを告げた。
To sakurai
from mahiro
先生何時くらいに帰ってくるの?
To mahiro
from sakurai
んー。21時には帰る。飯は先に食べてて。
To sakurai
from mahiro
先生が帰ってくるまで待ってるもん
まったくもって……いい感じにわがままになってきたことが嬉しくて、丸付けのスピードが少し早くなった。……採点が終わって平均点が笑えない数値を叩き出したことに、嫌な汗が出たけどな。
「ただいまー」
マンションのドアを開けたら、ぱたぱたと軽い足音が聞こえてきて
「おかえり先生!」
真尋が満点の笑顔で迎えてくれた。
夏休みとは違って昼間にコミュニケーションはとれなかったけど、大丈夫そうだなって思ったけど……真尋はそのまま俺の胸に飛び込んできて、愛情を確かめるようにスリスリと頬をこすってきた。
そんな真尋……恵憂がかわいくて髪を撫でてぎゅっと抱きしめたら嬉しそうに「んー」と声を漏らした。そのまま玄関で恵憂を甘えさせてあげていたら30分ほど経ってしまって。
「まず飯食べよう?」
恵憂は俺の胸でこくこくと頷いた。
……
まだ夏の暑さが残ってるこんな季節に、ルームサービスのメニューに「カレー鍋」なるものを見つけた真尋は「これ食べたい。いーい?」と言って俺の返事を待たずにポチポチ注文した。一人暮らしだと鍋なんて食べる機会ないからな。このマンションのルームサービスが注文して5分で部屋に届くというシステムが家賃の高さを底上げしてることは明白だ。楽できるからいいんだけどね。
ということで5分。
「いただきまーす」
わくわくしてるのがよくわかる反応で、あとちゃんと挨拶できるようになったことも嬉しかった。成長……と言うのが正しいのかわからないけど、真尋が1人の女の子としての自己意識が高まってくれたことを感じると、年相応のかわいさが表面に出てきて……なんか子育て成功した気分で。でも、もう子供とは思えなくなってしまった。
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