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さて、同棲というのは男女が同じ家に住むということが常識だ。ただしこれは成人している、もしくは未成でも結婚していることが前提条件だ。
俺と真尋、23歳と15歳の、しかも教師と生徒との同棲など世間では認められていない、というか立派な犯罪だ。一発でクビになる。新聞の一面を飾るかもしれない、かなり危うい綱渡りだ。それでも、捕まるのは俺だけだから、だから同棲なんて考えた。
「んで一緒に住めるか?」
寝起きの真尋は少し眠そうに目をゴシゴシして
「できる」
と率直に答えをくれた。
「とりあえず俺の家、見学に行くか」
「どんな場所でもいいよ。先生のこと信用してるから」
俺の提案を却下
「それよりアパート貸してくれてるおじいちゃんに挨拶に行こ?」
というこでその場で退去が決まり、荷物もほとんどない真尋は鍵を開けたまま、俺の家に行くことになった。ちなみに敷金礼金なしのアパートだったので俺が退去費5万払った。それはいい。大人のやることだ。でもね契約書を見て驚いたのは、家賃が2万という東京であり得ないほど安かったことなんだよなぁ。
電車に乗ること1時間半、世田谷区にある高級マンションの810号室が我が家であり、エントランスホールで上を見上げて、感動してるらしい真尋の手を握ってエレベーターへ。
「先生。間取りはどんくらいですか?」
「2LDKだよ」
ほぇぇと声を漏らしている。
「私、人生でこんな高そうなマンションに住むこと想像できなかったです」
ピンと音が鳴りいつもの8階に到着。
「俺も生徒を家に連れ込むなんて考えもしなったわ」
「もしかして彼女さんとかと一緒に住んでいるんですか?」
「だったら女の子と同棲なんてできないわ」
手を握ったまま『桜井』と表札があるところまで誘導して、電子キーで鍵を開ける。
「えっ鍵って電子化したんですか!?」
「高級マンションでは普及してきたみたいだよ」
鍵の電子化も時代が為せる技だよなぁ。
「よし。まず俺から家に入るからな」
「ただいまー」
次に真尋が無言で入ってきたのでデコピンして
「ほい。挨拶」
「お邪魔します」と言ったのでもう一度デコピン。
「ここは帰ってくるところ、だからお邪魔じゃないだろ?」
「たっ……ただいまー」
「よし!よくできた」
髪の毛を撫でてやると、ぷるっと反応して無駄な力が抜けたみたいだった。
「今日からここが真尋の家だからな。部屋は……俺が使ってないほうでいい?」
「もちろんです」
いやー部屋の隅々まで眺めてるな、ワンルーム、風呂トイレ一緒の家とは……流石に違いすぎたか。
「とりあえず荷物置いたら買い物だな」
「買い物ですか?」
なぜに戸惑うのか。
「この部屋、ないものだらけだぞ。布団かベッド、テレビに、パソコンにスマホと一日がかりだな。車出すか」
「そんな迷惑は……」
「娘が親に気を使う必要はないなぁ」
真尋にも逡巡もあったのだろう
「じゃあお願いします」
でも最後にきちんと向き合ってくれるそんな女の子だ。だから俺は
「任せろ」
と力強く言える。
……
「いやーにしてもすごい買い物だな。娘が一人暮らしするために家電買って上げてる気分だわ」
「だって先生が「そんな安物じゃなくて質で選べ」っていうから高いものだらけになったんですよぉ」
いささか興奮気味な真尋が珍しく、いい買い物できたなと引っ張り回したかいがあった。
「さて最後にショッピングモール行くぞ」
カーナビを三井アウトレットの方に行くよう操作する。
「なんでですか?」
この娘の謙虚……いや、なにも求められない感情は異常だ。
「女の子には服とか、その他人に見られたくない買い物とかあるでしょ?」
……
「アウトレットモールだなぁ」
人混みがすごいわ。
「んで軍資金が10万ね。8万以上使ったら戻ってきていいよ。俺はそれまで喫茶店でコーヒーでも飲んでるから。
俺を連れて行きたくないお店とかあるよね?」
またもや逡巡があるようで
「1時間で帰ってきますから!」
と到底、実現不可能なことを言って早足で人混みに紛れていった。
「さて俺もサプライズの準備でもしますかね」
一言ぼやいて俺も人混みに紛れていった。
……
結局俺は30分で戻ってきたが、真尋が戻ってきたのは3時間が経った頃だった。手にはたくさんの荷物。
「今まで……洋服を買ったりできなかったから。買えないのにウィンドウショッピングもしたくなくて……。今日は初めて眺めるだけじゃない、本当の買い物ができて……すごい楽しかったです!」
涙でぐしゃぐしゃなのに、笑顔を見せてくれて。
「俺も嬉しかったぞ。真尋がちゃんと”女の子”してた。俺に甘えてくれた。だから俺には遠慮なく甘えろよ」
「それとほら」
まだ嬉しそうにしている真尋に
「手首に巻くタイプの完全防水の電子キーを預けるからな」
きゃしゃな……いや、ろくな食生活っだのかがよく分かる手首の細さ。
「いたっ」
「あっごめん」
そんなに、いやまったく力を入れてないのに……。
そんな女の子が苦労する……そんな世界が嫌いだった。
まぁちゃんと自分の意見を言わせるっていうミッションはクリアだな。これで同棲も掴みは最高だな。
静かに俺は手のひらをぐっと握った。
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