作者の私にも時系列がよくわかってません


2年前


 当時俺は『名前を聞けば誰でも知っている有名大学』に通っていた。友達もいたし、バカやって終電逃したり朝までカラオケ大会したり、充実していそうな毎日だった。

 でも毎日、辛かった


 彼女もできたしそこそこ楽しいと思えた。

 でも寒かった

 

 

 死にたかった

 あの笑顔を守りたくて、それすら守れなくて。


 もう後悔しかなかった。

 だから大学の帰りにふらっと線路に飛び込んだ。死ぬことがすべてを忘れさせてくれると信じて。


 大きなクラクションの音と無理やりかけたブレーキと線路の摩擦の匂いが心地よかった。

 あぁやっと会えるかもしれない。そんな期待も頭に浮かんできた。それが救いだなぁ。

 なのに


 なんで俺は泣いているのだろう?


 いきなりガツンと頭を殴られ、ワイシャツの首根っこを引っ張られてホーム下の避難場所に投げ込まれた。

 電車がすごい勢いで目の前を通り過ぎていく。あんなものに突っ込もうとしていた自分の考えが薄ら寒い。助けてくれた人に感謝しかない。でもちょっと死にたかった気持ちも残っていて……。煮え切らない自分を冷静に見つめているもう1人の自分がとても嫌いだった。

 まぁとりあえず「ありがとうございます」とでも言うかと思い思い振り返ると女性がいた。息づらそうな呼吸をして、玉のような汗を浮かべている。そのうえ真っ青な表情で苦しそうな様子。それが……の表情と瓜二つで。それが酷だった。その感情を忘れたかった。


見た目としてはおそらく20代前半。美人と言っても差し支えない人で

「あなたあのままだったら死んでいたわよ!」

 めっちゃ怒っていた。

「まあそれが目的で身投げしたんですよ」

 内心を見られたくなくてわざとへらへらしていたのに

「純度100%の作り笑いやめてくれない? その笑顔、ひきつってるわよ」

 あっさり見抜かれた。

 「死にたい、死にたい、なんてことをぶつぶつ言う人は職業柄たくさん見てるけど……あなたは……頭の中で考えて、相談しない。そして自分で自分を見限って『死』冷静に見てそしてそれを選ぶのね」


 その後、駅員さんが迎えに来てくれて、主に俺がめっちゃ怒られた。まぁ悪いの俺だし文句を言える立場じゃない。

 厳重注意ということで大幅に遅れまくった運行ダイアについても見逃してくれた。そして開放された夜中11時、その女性は俺のことを待ってくれていた。 


 ねぇ、あなたの心の奥にある感情を、私に見させてくれない? 


 そう言って差し出されたのは、名刺で、上方に『済生会メンタルクリニック』とあり、中央に『カウンセラー 渡辺六華』と書かれていた。


それが最初の運命の出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る