ふぅぅぅぅぅぅ
「えぇ~先生、仕事なの~?」
ソファーから際どい部分が露出してる女の子はやはり萌えるけど……。
「真尋。パンツは見えてる、胸元も怪しい。よくそれで女の子って言えるな」
「んな!?」
真っ赤な顔の真尋を家に残して、夏休み最後の出勤。
普通、教師に夏休みなんてものは存在しない。しかし我が校は夏休みの出勤をシフト制にして、職員室には2人だけ。教師の数も多いのでかなり負担を減らせる。まぁもちろん緊急の呼び出しとかはあるらしいが、俺のクラスの奴らは大体、真面目なので問題も起きそうにない。つまり超楽! まぁ部活を受け持ってる教師のタイムスケジュールなんて見たくもないね。
職員室の自席に腰掛け……なにもなく帰宅。俺、暇疲れ嫌いだからなにもすることないのは苦痛の一言につくね。
家に着いたら……果て、家に誰もいないのか?。まぁカギ渡してあるからすスマホでショートメールを送ったら安心できるかと思ったら……風呂場の方から「ぴろりん」と受信を告げる音が鳴った。シャワーでも浴びてるんだろう。
風呂場を通り過ぎようとした瞬間、ドアが開いて泣いている真尋が
バスタオル1枚の真尋が出てきた。これは……まじで洒落にならん。
すごい勢いでドアが閉じる音がして……足を閉まる前のドアに突っ込んだ。あっこれは折れたな。めっちゃ痛い。
でも後悔はしてはしてない。俺、ダメなんだよ……その……女の子が泣いてるの。
足を突っ込んだドアをちゃんと閉めるのを諦めたのか(それでも閉めようとしたら粉砕骨折どころじゃ済まない)、俺がドアを開けると、真尋は出来得る限り肌を隠しながら背中を向けて座っていた。
そっと抱きしめる。やましい気持ちなんてないことを伝えるために。
柔らかく抱きしめる。安心してほしくて。
仮初の関係だけど、俺達は家族だよって伝えるために。
こうやって何回でも抱きしめてあげて愛情を注ぐんだ。それが彼女とむきあうために大切なことだから。
「とりあえず服着てこい」
それだけて真尋はこくこく頷いて、ばーっと走っていってしまった。おいていかれた俺は動けない……主に足からの激痛で。その場で腰を下ろして靴下を脱ぐと、真紫でパンパンに腫れた足首とご対面した。そりゃこんなんなってたら痛いわな。
仕事どころか日常生活にも支障が出るレベル。これを真尋に隠し切るのは無理だ。んーどうしたもんかな。ってあまりの痛さに頭がぼーっとしちゃって気が付かなかった……真尋が部屋から出てきて……俺の怪我を真っ青な顔で見ていたことを。
「先生! その傷! やっぱり先のって、救急車? えっとえっとえっと」
自分のことなのに、他人事みたいに感じてしまうのは、目の前の真尋が俺以上にテンパってるからだな。意外な形で助けられた。
なんとか立ち上がって
「おい真尋」
ペシッと頭を叩くと多少は冷静になったらしく、でも顔は真っ青のまま
「先生。救急車呼びますか?」
「呼ばなくていい。説明できないことが多すぎる。
それに真尋がいるからな。俺にできない家事手伝ってもらうからな」
かなり痛いがそんなことより、真尋の曇った顔を晴れやかにするほうが大切だ。
「真尋がいてよかった」
「なんで! 私のせいなのに……。怒ることもしないの? そんなに信用ないの?」
ガッシと真尋の肩を掴むと、耳元で
「怒ったら恵憂が悲しむだろ。これから俺の世話してもらうんだ。頼むぜ恵憂」
「こんなときに名前呼びなんてずるい……。
でもずっとそうやって呼んでほしかった」
ばふっと俺に飛び込んできて……当然俺が支えられず……意地で耐えたよ
その後、近くの整形外科に行って、単なる骨折だと告げられた。全治2ヶ月ということでギブスでがちがちに固定され、松葉杖ついてどうやって出勤しようか考えてた。
その日の午前2時。骨折からくる痛みと熱で寝れなかった俺の部屋に入ってきた真尋。改め恵憂。
ちなみにノックありが起きてる時、なければ泣きにきた時のやつ。なのに今日は……すでに泣いている状態で布団に入ってきた。
「先生、起きてるでしょ?」
俺はぎゅっと抱きしめることで答えを返した。
「先生はずるいなぁ」
「俺に謝るなよ」
びくっと反応した。
「てか泣いてるならこっち向け」
「やだよ」
「いいから向けって」
ごそごそと体勢を変える音がして、思ったより沈んだ、暗い泣き顔なのが一瞬見えてしまった。
俺にできることなんて。
「っん」
いつもより強く抱きしめて、頭をなでてあげる。今はこれしかしてあげられない。もっと関係が深まればもっとなにかしてあげられることも増えるだろう。
「っっっっっっっっっっっ」
俺のスウェットを噛んで泣き声だけを我慢して、ぼろぼろ泣いている。
「確かに俺だけの一人暮らしだったら骨折なんてしなかったとは思うよ。
でもね。恵憂が帰りを待っててくれる生活の方がいいな」
「先生はずるい」
「泣かせてばかりでごめんな」
「先生はずるい」
恵憂がぎゅっと抱きしめてきた。
「先生のこと大好きだからね。誰にも甘えられなかったからかな? 自分でもよくわからないけど……この気持は本物。先生のことは特別だから……だから……もっとぎゅっとして」
甘えたりないこの娘にはたくさんの愛情を惜しみなく。
「ふふ」
「どうしたの先生?」
キョトンとした反応もかわいくて。
「素直になったなぁということが嬉しくて、さ」
俺の胸にもぐって顔を隠そうとしてるんだろうけど……『俺の胸のなか』っていうのがもう甘えてる証拠なんだよなぁ。
でもそんな真尋もかわいくて、存分に甘えさせてあげる。
求められたら何度でも甘えさせてあげる。それが正しいと信じて。
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