春樹カウンセリングレポート1

「カウンセリングに必要なのは信頼なの。信頼できない人に自分の深いところは話せないでしょ?」

「まぁそうですね……」

「だからと言って信頼関係が深まるまで雑談なんてするカウンセリングにお金を払う人なんていないのは当たり前よね?」

「雑談に60分6000円払う人がいたら面白いですね」

「じゃあ信頼関係を早く築くためにはどうしたらいいかわかる?」

「……。主治医の推薦とかですかね?」

「あなた頭の回転早いわね。その答えにたどり着いた人に初めて会ったわ」

「まぁ大学は心理学専攻なんで」

「じゃあ自分のことを客観的に見つめられてる?」

「客観的に見つめて、電車に飛び込みました」

「それはただ逃げただけ。客観的に見つめてない。もしできていたならまず病院へ行くはずよ。心理学専攻ならそんなことすぐに分かる」

「……」

「話を戻すわ。どうやったら信頼関係を築けるか。それは最初から興味を持ってくれる人だけ見ることよ」

「興味ですか……」

「少なくともあなたはカウンセリングに興味が湧いて、何かを期待して私のところに来てくれた」

「そうですね」

「そして私はあなたの期待に答えを示して、一気に信頼関係を築くわ」

「俺が何に期待してるかわからないのに答えを示すんですか?」

「あなたは胸の中に後悔を抱えてる。話したくないけど話したい」

「……なんでそのこと……」

「『話したくないけど話したい』これは今日ここに来てくれたことで明白。後悔があるのは終始淡白な返しで胸の中を見せないようにしているからよ」

「……」

「そうやって本心に触れられると、嬉しそうに少し視線を私の顔に合わせて、悲しそうに手を握ってるところから推測できるわ」


「……」


「ダメだ……。負けました。すべて肯定します。深い後悔があって、もうひとりでは抱えきれなくて電車に飛び込みました。少し嬉しそうにしているっていうのは死ねば開放される、また会えるかもしれない、そんな期待です

でもまだ相談できません。これは俺が解決し……」

「解決できない内容なんでしょ?」


「次回、次に来たときに全部話せるよう整理するので今日はもう」

「全部じゃだめよ。少しずつ進めていきましょ。

 この問題は根っこが深いから、だからこそゆっくりなのが必要なの。

 じゃあ次回は3週間後にしましょう」

「ありがとうございます」

「最後にまとめてレポートにしてあげるから。だからゆっくりしてね」

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