実際に赤点ってあるんですか?

「ではこれを見てくれ。他の科目の先生にデータを貰って作った赤点ラインの科目だ。数学、英語、世界史、古典の4科目だ。しかも現状、すでに赤点ラインの軌道に乗っているだけで、これら以外の赤点ラインの科目も出てくるだろう。

で、どうする?

これに加えてキャバクラで働いてることがバレたら一発強制退学だな。あー笑えない」


 当の真尋は真っ青な顔。

「まぁ普通に考えて、キャバクラ一本でいくのか、学校に真面目に通うかの二択でしょ」

「普通は「キャバクラ辞めろ」って言わない?」

「これは「俺の」責任問題だけど、これは『真尋恵憂』という個人がどう生きていくのか、という問題でしょ。そこに口を挟むほどのやる気を俺は持ってない」


 やっぱり私は最後まで独りぼっちで終わっちゃうのかな……


小さな湿った声が漏れてきて、もう真尋の瞳からは次々に涙がこぼれていて

「あれ? なんでまた泣くの?」

そんなことを言いながらとめどなく涙がキラキラとフローリングに落ちていく。


 私ね、親がいないの。児童養護施設の入り口にせめてもの服とタオルにくるまれて、ホッカイロが入っていて、優しいのか優しくないのかわからないよね。

 その施設でも私は独りぼっちだった。読み書きができなくて、簡単な算数もできなくて。できるようになったのはもう中学3年生だった。その時紹介されたのが立華さん。あの人の前ではなんでも話せた。何度も泣いた。そして先生を紹介された。

「あなたに似た傷を持ってるから。だから独りぼっちにさせてくれない、そんな先生よ」

って言ってた。先生の進路も決まってなかったのに。立華さんってすごいよね。

 でも私には学費を払ってくれる人がいないのに

「1年分だけ奨学金が入って、その1年で後の2年分の学費を貯蓄して……」

と思ってたんだけどもう明らかに無理ですね。

 

 彼女の湿っぽい独白をしっかりと、俺なりに受け止めた。


「ちょっと真尋、その場で立ち上がって」

 頭を振って、いやいやしてる。

「いいから立てって」

ノロノロ泣き顔を隠しながら立ち上がってくれた。身長は150cmくらいだろう。細いなぁ。

 そんな真尋を後ろから抱きしめた。

「せっっせ、先生?」


 ゆっくりと。心の奥まで届くように。

 この子の心には根強く孤独感というものがあるから。

 もう誰も信用できないっていう心だと感じたから。


 「よくここまで頑張ったね。ここからは俺も寄り添うから。

 今まで辛かったよね。辛かったこと、全部聞くから。

 いっぱい泣いたよね。泣きたくなった俺を頼っていいから。


 だから1人で抱え込まないで、先生に相談してほしいな」


 真尋はくるっと体ごと俺に向かいあってくれて力強く抱きしめ返してくれた。俺のスーツを噛みしめて大声がでないように、でも甘えるように。

 いいさ。今日からいっぱい甘えさせてあげるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る