暇疲れするタイプです

 7月のよく晴れた、めっちゃ暑いくらいの日。学校に提出されていた住所に向かっていた。そこそこ、いや、かなり遠くて、駅から歩くこと30分。閑散とした場所で家賃が安そうなボロアパートに到着した。

 ポストには『202 真尋』と随分汚い文字が書いてあった。

 訪問を伝えるベルを押すと、「ピンポーン」とありきたりな音が鳴り、ドタバタと焦っている足音が聞こえ玄関まで来たらしい。チェーンをかける音がして、玄関を少し開けてこちらを見て


 思いっきりドアをを閉められた


 女の子らしい敵愾心の現れかなっと深呼吸をしてから、仕方ないとわかりながら、理屈ではわかるけど、感情的にはイライラしてきて


「玄関越しでいいから聞いてくれ」  


「お前、このままいけばもう一度一年生だぞ。留年確定になるぞ」


 少しだけ時間をおかれ、その一言で、ガチャと鍵の開く音がした。

「ちょっっちょっと、5分だけ待ってください」

「ん? 5分でいいの?」

「頑張ります」

まぁ女の子だし見られたくなくてものがたくさんあまのは、想像に難くない

 んで待つこと15分。5分って言ってたよな? わざわざ自分でハードル上げる必要ないのに。更にイライラしてきて。タバコでも……と思ってポケットに手を入れたのと同じタイミングで玄関ドアが開いて『とある女子生徒』こと真尋恵憂が招き位入れてくれた。


 女の子の家をじろじろ見るつもりはないが……これはやばいと頭の中で警鐘を鳴っている。いや、散らかってるとか汚いではないが……。ここはあまりにも、おおよそあり得ないくらい「生活感」がなかった。犯罪臭は過分にあるが。

 半分にちぎられているカーテン。足の曲がった机。寝室を分けてあるだろうふすまにはいくつもの穴が空いている。そして「なぜか、という方がいいのか」「やっぱり、という方がいいのか」使い込まれている化粧台。


 俺の座右の銘の1つ「めんどくさいことは手短に」を発動してお茶を持ってきてくれ、対面に座ったその女の子に

「お前、まだキャバクラ辞めてないだろ」

「いや……辞めてますよ?」

 なんで疑問形なのかよくわからんが

「この前、お前が働いてたキャバクラ行ってみたら「今日は出勤じゃないんですよ。すみません次の出勤が~」って言ってたよ」


 目線を手元に向けて泣きそうなのを我慢していることが「ありありと分かる」

 でも、もう「俺の」責任問題になってしまったので、「俺は」容赦なくさらに追い詰める。

「今日は保護者の方は?」

「仕事で帰りは夜になると思います」

 間髪入れずに、明らかに嘘だとわかる返答をしてくれた。間をおかないから余計に嘘くさくなることに気がつく年齢ではないな。

「なぁお前、」

「お前って言わないでください!」

 こいつの初めて、自主的に俺に怒鳴ることで意見を言ってくれて、自分の恥に気がついた。人には名前があって、それがパーソナリティの1つなのだと。

「ごめん。もう二度と「お前」って言わない。だからどう呼んでほしいか教えてくれ」

 机越しだけときっちり頭を下げる。教師が謝るということでその先生をなめる、知恵の足りない子供は多いけど。俺は『真尋恵憂』ときちんと向き合いたかった。

「普通に「真尋」でいいですよ」

少し柔らかな微笑みだった。

「ありがとう」


俺がこの子を気にかけているのは、この子が「えう」という名前だったからかもしれないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る