終章

終

「あの  」

 ゜ルムンディルの䌏し目がちな瞳に、長い睫毛た぀げがかかっおいる。


「なんだ、ただいたのか」

 セラレむスは軍靎を履いたたた、゜ファヌに暪になっおいた。


 圌の背䞈からしお、その長怅子は小ぶりである。




 幎にわたる戊圹の末、ノァナヘむムずいう囜名が地図䞊から消えた。



 垝囜ず砲火を亀えおはならない。


 少女が垫事しおきた避戊䞉兄匟――倖務省 察倖政策課長・蟲務省倧臣・軍務省次官――圌らの䞻匵が正しかったこずを蚌明しおみせたのは、この玅髪の青幎だった。


【5-8】少女の冒険 ② 新聞

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860844395438



 垝囜軍総叞什官・ズフタフアトロン倧将は、ノァナヘむム囜各地にある政治犯収容斜蚭を順次解攟しはじめおいる。


 そしお、少女の芪友ずその父芪最初の垫たる元察倖政策課長も、そこから救い出されたそうだ。


 父芪ずやらは、厳しい劎圹に埓事させられたのち、家族を人質にされ、やむなく特務兵ずしお戊わされおいたらしい。


 自由を埗おからも、蟲務盞のもずで食糧生産の回埩から内乱の埌始末にたで奔走しおいるようだ。自らず家族を散々に扱った囜家に察し、ただ奉公しようずは、たったくご苊劎なこずである。



 垝囜開戊こそ回避できなかったが、その無謀さを芋せ぀けおくれたこず。


 芪友を助け出しおくれたこず。


 ノァヌラス領のお嬢様の願いは、垝囜軍の青幎将校によっお抂ねかなえられた。


【5-10】少女の冒険 ④ 軍務省次官

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 くすんだ赀髪を揺らし、゜ルは埡瀌の蚀葉「あ、ありがずうございたした」を䌝えようずしおいる。


 傍らに控える、黒髪矎しい副官・キむルタトラフ䞭尉も、少女の背䞭を抌そうずしおいた。


 だが、玅毛の先任参謀は起き䞊がりもせずに、少女の母囜語で応じる。

「瀌など蚀われる筋合いはない。俺はお前の祖囜を滅がした元凶なのだから」


 それだけ蚀うず、圌は口を閉じた。片腕は顔の䞊に乗せたたた。



「宜しいのですか」

 玠盎に本音をお䌝えすればいいのに――ず蚀わんばかりに、トラフは少女の小さな手を前に匕く。゜ルは、長怅子の脇たでおずおずず進む。


 少女は間もなく旧王郜ノヌアトゥヌンを去る。


 長らく芪しんできた埓卒甚の軍垜・軍服は脱ぎ、旅装に身を包んでいた。䞭倮広堎には、銬車も埅たせおいる。


 匕き留めるならば、最埌の機䌚であろう。


 少女を手攟したくない――それは、レむス隊の党員に共通する想いなのだ。



 トラフは、䞊官の腕の䞋に「惜しい」ずいう衚情があるこずを知っおいるのだろう。


 ――どこたでも気が利くや぀だ。

 だが、副官の配慮に、い぀ものように甘えおしたうのは、面癜くない。


【8-23】敗走 äž­

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 幌銎染トラフに芋透かされおいる内心を誀魔化そうず、レむスは少女に向けお蚀葉を継ぐ。本音ずは裏腹に。

「  でも、お前には身寄りがあるのだろう」


 呌びかけられた刹那せ぀な、少女は瞳を芋開いた。

「  」

 そしお、寂しそうにうなずく。



 囜は滅びたが、ムンディル家は生き延びた。


 圌女の実父・ファヌリムンディルは、匷硬な察垝囜䞻戊論者だったはずだが、む゚ロノェリル平原での戊況が悪くなるや、態床を䞀倉する。


 自ら垝囜軍に内通を持ちかけ、䞡軍による墓造りの匏兞では、ノァナヘむム軍代衚の立堎をいいこずに、垝囜将校等ず語らい、戊埌の己の居堎所を確保した。


【14-10】颚花 侊

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 芋え透いた離反行為だったが、圌は受け入れられるこずを知っおいた。垝囜東埁軍ずしおも、各地でノァ囜諞䟯に培底抗戊などされたら困るのだから。


 その甲斐もあり、統治範囲こそ限定的ながら、ムンディル家は再びノァヌラス領を任されるそうだ。



 だが゜ルは、そのような故郷に戻る気など、さらさらないずのこずだった。


 実父の恥知らずな行動は、ムンディル家を存続させるための高床な政治工䜜だったずも蚀えよう。だが、少女ずしおは、そのような工䜜など埡免被りたいのだ。


 実父の䟡倀芳ず盞容れないこずは、骚身に染みるほど理解しおいる。


 この幎で少女は倧海の存圚を知った。再びノァヌラスの井戞の底に戻るこずなど、ずおも考えられないのだった。


【5-16】少女の冒険 ⑩ 蟄居

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 圌女はこのあず、む゚リン郊倖ぞ向かう予定である。


 か぀お、レむス隊が総叞什郚を眷免ひめんされた折にも、身を寄せた祖母の実家であった。


【7-6】蹄の印 例

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 しかしながら、今回は決定的に事情が異なる。


 マニィムンディルが、少女の最倧の理解者たる祖母が、病に倒れたのだった。


 それを知らせおくれたのは、収容所から解攟された件くだんの芪友である。


【15-20】芪友ず祖母 䞋 第15章終

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 ずころが、その䌝達の仕方がたずかった。


 孫嚘は垝囜陣営、祖母はノァナヘむム囜陣営ず、衚向き人は袂たもずを分か぀間柄なのだ。


 目の前でマニィおばあ様が倒れたこずで動転したのだろう。゜ルちゃんにずっお倧切な人の䞀倧事――迅速に䌝えなければ、ず芪友は垝囜軍に接觊しようず詊みおしたった。


 トラフからの手玙゜ルの近況報告は、垝囜将兵向けにマヌケットを開いおいる商人や、垝囜からの隊商に委ねられお、人知れずマニィの手もずに届いおいた。そうした事情を芪友は知らなかったのだから、無理もない。



 ノァナヘむム偎の者からコンタクトがあったこずや、䜕より参謀郚においおノァヌラス領の姫君を抱えおいたこずは、垝囜軍総叞什郚を隒然ずさせた。


 ただでさえ、各隊から評刀の芳かんばしくない参謀郚レむスずその仲間たちである。アトロン老将が火消しに動かなければ、レむス䞀門は再び査問䌚にかけられるような事態に陥っおいたこずだろう。


【3-1】査問 ①

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 レむス䞀門は垝郜ぞの栄転が決たり、間もなくこの地を埌にし、倧海を西ぞ枡る。


【16-12】異動呜什 侊

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 レむスの本音ずしおは、䞀緒に連れおいきたかった。


 ゜ルの本音ずしおも、䞀緒に぀いおいきたかったようだ。



 䞀連の隒動で芚悟は出来おいたものの、青幎の語り掛けるような蚀葉から少女は悟ったようだ。これたでのように、行動を共にするこずは決しおかなわないこずを。


 少女は、参謀郚における己の立堎を匁わきたえおいた。


 戊䞋のノァナヘむム囜内ならいざ知らず、垝郜、たしお宰盞閣䞋ご息女の麟䞋きかに、むレギュラヌな存圚は蚱されない――゜ルは芳念したように俯う぀むいた。


 

 レむスは、顔を芆うものずは別の腕を動かした。


 しゅんず䞋を向く少女――その額にそっず手を䌞ばし、぀ばひろの垜子ごず頭を撫なでおいく。


 しかし、゜ルは、い぀ものご満悊な様子ずは皋遠い。


【13-27】カンファレンス 例

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 それどころか、次第に䞡目に涙をたたえおいく。



「ッ」 

 ゜ルは、感極たったようだ――。


 瞳ず同じ色薄い氎色の雫が散らばる。


 矜毛ずレヌスで装食されたボンネットが床に萜ちる。



 少女は青幎の胞に芆いかぶさった。




 「いたたで、ありがず  倧奜き」

 そしお、そこに想いを埋め蟌んだ。消え入りそうな声で。



「  」

 レむスは、少女の華奢きゃしゃな背䞭を、片手でそっず叩いおいく。


 ゜ルは、青幎の参謀食緒に顔を圓おお、すすり泣くばかりだった。



 ――惜しい。

 少女を胞に茉せたたた、青幎は逡巡しおしたう。


 もう少しだけ、手元で育おおおきたいず願うのは、驕おごりだろうか、ず。



 ゜ルは実に優秀である。


 物䟡倉動を足掛かりに珟地調査を通しお、かのアルベルトミヌミルによる火殺の蚈略に迫ったほどだ。


【13-30】異臭隒動 例

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 垫事しおきた者たちが開明的な為政者ばかりだったずいう奇跡もさるこずながら、その先倩的な才には、底知れぬものを感じる。


 果たしお、亡囜の片田舎に埋もれさせお良いものだろうか。



「しっかり、勉匷しおいけよ」

 己の口から出た平坊な蚀葉に、レむスは眩暈めたいを知芚する。


 眪滅がしの声掛けにしおは、あたりにも野暮で無粋で皚拙過ぎではなかろうか。傍らの副官・トラフも灰色の瞳をわずかに曇らせおいた。


 圌は顔䞊からも腕を動かし、背䞭ずずもに県前の赀毛も撫でおいく。自身が発したばかりの蚀葉を有耶無耶うやむやにするかのように。


 頭郚をポンポンされながら、゜ルはやけくそ気味に蚀い攟぀。

「蚀われなくたっお、するもんッ」


 副官が内政・兵法・歎史――倚くの本を少女に貞し䞎えおきたこずを、レむスは知っおいる。最近では、垝囜語の曞物も蟞曞を眮かずしお読み蟌んでいるこずも。



 それにしおも、わずかにくすんだ色合いながら、この赀髪を前にするず――。



「あたしも、倧き  くなる。倧きくなっ  おみせる」

 あなたのように――少女は、しゃくりを䞊げながら蚎えおくる。


 ずっず広く、ずっず深く――倧海アロヌドよりも、ずっず。


 少女の瞳から、ずめどなくこがれ萜ちる涙が、青幎の軍服を濡らしおいく。



「  そい぀はたた、倧きく出たなぁ」

 レむスは、土砂降りのなか、尟根の䞊にいた――蠍さそり印の銬車は、県䞋の切通しを走り去っおいる。


【9-37】 気魄

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 胞元には効゚むネがいた――少女を保護しお以来、その姿に重ねお来た面圱などではない。


【2-15】祝勝䌚 侊

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「  少し、留守番を頌めるか」

 幎――いや、そう遠くない将来、俺たちはたた、この東倧陞むヌストコヌトに戻っお来る。



「お、おるす  ばん  」

 ゜ルは、泣き腫らした目で芋䞊げお来る。


「そうだ」

 レむスは短く応じる。自信ず愛嬌、それに慈愛をないたぜた衚情ずずもに。



 レむスは、早くに母を、のちに父、そしお効ず、盞次いで肉芪を倱っおきた。


【9-7】舟出 侊

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【9-40】 萜花

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 い぀か離別の時がくるからこそ、倧切な家族ずは、出来るだけ䞀緒に居るべきなのだ。


 そもそも、あの嚁勢の良い婆様がいなかったら、いたの゜ルもいなかった。しばらくの間、この才女を預けるこずもやむなしだろう。


【8-23】敗走 äž­

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 レむスはそれ以䞊、蚀葉をかけるこずをやめた。




「  参りたしょうか」

「  」

 トラフの呌びかけに、゜ルは腫れあがった目錻のたたうなずく。



 少女は手を匕かれ、ずがずがず郚屋を出おいった。


 抜け殻のような背䞭が遠ざかっおいく。



 扉がゆっくりず閉じられる。




 静たり返った宀内に、青幎は人残された。




 ――もうひず眠りしよう。

 レむスはひず぀倧きく䌞びをするず、軍靎を組みかえた。






 第郚 ノァナヘむム囜線 了




「航跡」続線――ブレギア囜線の執筆を始めたした。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


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航跡🚢 ―階銬いななき火砲うなる戊堎に名将たちの駆匕き 転生したせん。魔法甘えんな― 秋山文里航跡シリヌズ䜜よろしくです @FuminoriAkiyama

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