【13-30】異臭騒動 下
【第13章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429616993855
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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ソル=ムンディル参謀見習い一行は、3階へ駆け上がった。
そこで、少女は腰の短剣を勢いよく抜く。そして、天井に切り込みを入れるべく、やッという声とともに飛び上がった。
だが、その切っ先は
二度三度試しても届かない。助走をつけてジャンプしても駄目だ。小さな軍靴を脱いで、ベッドの上で跳躍したところ、勢い余ってひっくり返る始末である。
「……」
「……」
「……」
護衛兵たちは、班長の行動を即座に理解しかねていた。赤毛を振り、ぴょんぴょんと飛び跳ねる美少女を見守るばかりである。
言葉にこそ出さなかったが、そうした愛くるしい姿をもう少しだけ眺めていたい――彼らの認識は一致していた。
「て、てんじょ……天井……裏だ」
「天井?」
「なるほど」
「天井裏でありますか……!」
何をボケッとしている――息切らすソルの言葉で、ようやく彼女の意図を理解した衛兵たちが動き出した。
「失礼いたします!」
彼等の1人は、両手で少女の脇の下をつかむと、高い高いとあやすように……もとい、己の肩の上に掲げる。
衛兵に肩車をしてもらったソルは、ようやく目的を達成する。
ところが、天井に短剣を突き立てた瞬間、降り注いだ刺激臭に、ソルは薄水色の瞳を開けていられなかった。くらくらと
少女は両目を強くつむり、口をへの字にしたまま懸命に短剣を動かす。そして、天井に10センチ四方の穴を切り抜くことに成功する。
天井裏を開けると、猛烈な臭気とともに、何かが落ちた。
「植物……
1本の
「こりゃ、魚油ですな……」
藁を数本手にした別の衛兵が、顔をしかめながら、つぶやいた。
魚油とは、大量のイワシやサバなどを蒸し煮して脂を圧搾するが、灯火用のそれは食用に比べて絞り込みが粗い。油缶のなかでたちまち酸化し、内陸のヴァナヘイム国に届く頃には腐敗が進む。
電気が普及していない城下の家屋では、安価な魚油は灯火に用いられた。だが、燃焼時に立ち昇る煤と、その閉口モノの悪臭には手を焼いた。
どの家庭も、カンテラや火皿に使用分を垂らしたほかは、蓋を厳重に閉めた油缶を納屋などにしまい込んでいた。
藁束に染み込んだこの魚の脂が、今回の腐敗臭の原因であった。
そして、過日、少女が相場の上昇を発見した2つの品目も、藁と魚油あった。
【13-27】カンファレンス 下
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330651467422179
悪臭が発生した建物は、ここだけではない。ソルは異臭騒ぎのあった家々を訪ねていった。
異臭を生じていた家屋は、どれもみな天井裏に魚油まみれの藁が仕込まれていた。そのなかには、天井の薄板に油が染み出しているような様子も見受けられた。さらに時には、床下にまでそれらが詰め込まれていることもあった。
敵の総司令官・アルベルト=ミーミルが紡ぎ出した策謀の端緒――それを、ソルは
帝国軍を散々悩ませてきた男の存在が、たちまち身近に感じられるようになり、ソルは
彼女はポシェットから暗号帳を取り出すと、無電機の前に座った。そして、指を震わせながら、エドラの総司令部に滞在する上席・カムハル中尉宛に、状況を打電する。
少女は忙しい。
無電を打ち終えると、今度はテーブルの上に絵地図を広げた。
エドラ出立の折、セラ=レイス中佐から渡されたものである。そこには、ドリス城下街の建物の様子が、1軒1軒
ドリスに向けて出発した時刻は、日の出前であった。先任参謀による突然の御見送りに、周囲の護衛兵たちは敬礼したまま固まる。
それらに対し、彼は寝ぐせまみれの
そして、
彼女がそれを受け取ると、彼は1つ2つ小さく手を振りつつ
ソルは、「魚油漬け藁束」が見つかった家々について、この絵地図の上に1つ1つ印を付けていったのである。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「【絵地図】ドリス城塞」お楽しみに。
ソルの作った絵地図が間に合いました!
そちらをご紹介させていただきます。
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