【5-8】少女の冒険 ② 新聞

【第5章 登場人物】

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 祭りの前のように、王都・ノーアトゥーンの領民たちは熱気に酔っていた。


 一体、王都はどうなってしまったのか。これから何が起きようとしているのか。


 ――情報が欲しい。

 

 その一心で、ソルは街角の売店で古新聞を購入した。


 新聞など屋敷に戻れば手に入っただろうが、父親は娘が俗世間の情報にかぶれるのをいとい、少女の購読を禁じていたのである。


【5-2】異国かぶれ ①

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 それに、この王都には最大の理解者たる祖母は不在である。彼女から雑誌を受け取ることも出来なかった。


【5-3】異国かぶれ ②

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 少女はお小遣いをたくさん持ってきていたため、できるだけ過去のものまでさかのぼり、かつ多紙にわたるよう買い求めた。


 むき身の新聞を抱えたまま屋敷に戻るわけにはいかない。中身を空にしてきた旅行鞄にそれらを詰め込もうとしたが、小さな手は不器用で、上手く収まらない。


 明らかに買い過ぎたのだ。


 身なりからして家柄の良さそうな美少女が、街外れで新聞を大量に買い込む様子に、売店の店主はややいぶかしんだようだった。だが、鞄に詰める作業に難儀する様子を見かねて、彼は手伝ってくれた。



 少女は小さな両手で鞄を引きずりながら、王都のムンディル邸にがんばって戻った。そして自室でそれらを1枚1枚読み込んでいった。


 祖母から手渡された旅行雑誌を父に隠れて読むことはあるが、ここまで堂々とムンディル家の家訓を破ったことは、いままでなかった。


 しかし、家訓破りで得た高揚感など、すぐに消し飛んだ。


 驚いたことに、紙面には友人の父親が、ほぼ毎日のように登場していたからだった。時に写りの悪い写真付きで。



 彼の名前は、エーギル=フォルニヨート――肩書は対外政策課・課長であった。友人の父親が、外務省の管理職として国交の実務を担っていたことを、ソルははじめて知った。

 

 だが、彼が掲げる「帝国避戦」に理解を示す者はごく少数だった。


 同調した者など、変わり者と揶揄やゆされていた農務大臣や軍務省次官くらいだった。新聞各紙は、この3名を「避戦三兄弟」とくくり、批判的な記事を書き連ねている。

 

 は、各領主の軍勢による暴走を必死にとどめようと奔走してきたが、次第に世相にあらがえなくなっているようだった。


 そして、ついに対外政策課長は更迭されてしまった。「帝国側と内通」という取って付けたような罪状で。驚くべきことに、それは、実父がヴァーラス領の友人の屋敷に兵を向け、舶来品を火に投じた日と同日であった。



 更迭後、友人の父親の足取りは、新聞からはつかめなくなった。


 友人の王都の邸宅にもう1度行ったところで、怖い兵隊ににらまれ、軍犬に吠えられるだけだろう――やむなく、ソルは農務省の門を叩くことにした。


 同省の大臣は、元対外政策課長の数少ない賛同者として、新聞に度々登場していたからだった。友人とその家族の行方について、何か教えてもらえるかもしれない。


 その後の新聞では、帝国との開戦に強硬に反対している農務省の大臣と軍務省の次官は、「時流を理解できぬ愚か者」と連日、名指しで批判されていた。


 最近では、両名を「売国奴」扱いする記事も出回り始めている。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ソルの友人とその父親の安否が、いよいよ心配な方、

避戦三兄弟が気になる方、


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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「少女の冒険 ③ 農務大臣」お楽しみに。


農務大臣ユングヴィ=フロージは、小さな訪問者に驚いた表情を浮かべたが、快く応接室へ迎え入れてくれた。

大臣は、困ったように胡麻塩ごましお頭をかいていたが、しまいにはかみ砕いた言葉で彼女の友人とその家族が置かれた状況を説明してくれたのだった――。

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