【5-7】少女の冒険 ① 祭りの前
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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あの日からソルは、友人と連絡が取れなくなった。
彼女の馬車を見送ってからふた月、王都に手紙や電報を送っても何の音沙汰もない。
ヴァーラス領下の彼女の邸宅に、父ファーリが兵馬を向けたのは突然のことであった。
使用人たちを追い出し、屋敷を占拠した理由を問うても、実父は答えてはくれなかった。
中庭に用意された大きな焚火のなかへ、舶来の品は次々と投じられた。
逃げ出すようにしてヴァーラス領を去った友人
帆船模型が炎のなかで燃え崩れていくのを目の当たりにし、ソルは日に日に不安を募らせていった。
そして、居ても立ってもいられなくなった少女は、王都ノーアトゥーンに行き、友人の無事を確かめるしかないとの結論に至った。
少女があれこれ思いついた理由よりも、祖母・マニィによる口添えの効果の方が大きかった。
軍議に参加するため、王都に向かう父の馬車にソルも乗せてもらえることになったのである。
祖母もヴァーラス領下の騒乱について把握しているはずだったが、孫には何も尋ねなかった。
帝国暦380年12月中旬、少女の乗った1等客車は、ノーアトゥーン
故郷ヴァーラスから馬車を乗り継ぎ、城塞都市・トリルハイムからは汽車に乗り込んだ。その移動距離350キロという旅であった。
実父が留守になった隙を見つけ、ソルはさっそく王都の街に繰り出した。
くすんだ赤髪を包んだボンネット(つばの広い婦人帽子)は、羽毛とレースで装飾されている。身にまとった上質なケープコートは、胸元を薔薇のコサージュが押さえ、襟回りに毛皮があしらわれていた。
時折吹き付ける寒風も、この帽子とコートがあればへっちゃらだった。
ピカピカの靴を履いた小さな足で、少女は勇むように王都における友人の別邸に向かった。
しかし、そこは軍服姿の怖い顔をした大人たちによって占拠されていた。
久しぶりに訪れた王都は、殺伐としていた。
「立てよヴァナヘイムの民よ」
「帝国を打ち払え」
「支えよ
勇壮な文字の躍る横断幕がそこかしこに掲げられ、礼拝堂から広場まで街のあちこちで、たくさんの民衆が集っていた。
平日週末問わず、交わされる帝国打倒の声は、ヴァーラス城の比ではなかった。
街角のパン屋の前では、ついに従前の3倍の金額になったと、婦人たちがため息をついていた。
少女は食斤の値段は分からなかったが、軍需優先により、食料品の物価高が生じているらしい。それでも、最後には「耐えてみせる」と人々はうそぶいていた。
祭りの前のように、彼らは熱気に酔っていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ソルの友人とその父親の安否が気になる方、
王都の雰囲気が心配になってしまわれた方、
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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「少女の冒険 ② 新聞」お楽しみに。
祖母から手渡された旅行雑誌を父に隠れて読むことはあるが、ここまで堂々とムンディル家の家訓を破ったことは、いままでなかった。
しかし、家訓破りで得た高揚感などすぐに消し飛んだ――。
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