【9-40】 落花
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
【世界地図】航跡の舞台※第9章 修正
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139556452952442
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ほどなくして、レイス領・スリゴの街は、残暑がぶり返していた。間もなく10月とは思えないような日差しが続く。
エイネの部屋には、腐臭が漂い、
キイルタは、灰色の瞳に涙を浮かべながら、何度も玄関先を行き来した。
そこに先生が居てくれるのではないかと。扉にぶつけた鼻頭を押さえ、うずくまりながら。
【9-28】 呼び鈴
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しかし、少女が何度となく木扉を開け閉めしても、ゴンという手応えを知覚することはなかった。
ぶかぶかの白衣に大きな黒革鞄を引きずった名医は、現れなかった。
「あにさま、キイルタ、ありがと……」
かすれた声で短く謝意を伝えると、エイネは永い眠りについた。
窓辺に置かれていた鉢植えは、いつの間にか花弁がすべて落ちていた。
数日後、スリゴ領内のオーク教会にて、質素な葬儀が営まれた。
トラフ家からは当主・ロナンとその娘・キイルタに老執事。ゴウラ家からは当主・フインとその夫人に内政補佐官たち。スリゴの村からは役場の者たち、それに、教会学校にて読み書きを共に習っていた少女たちが、それぞれ参列した。
キイルタの灰色の瞳に映えるほど、
エイネが好きだった、色とりどりの花。
明るい花々に囲まれ、やつれきった少女の表情は、いくぶんか明るさを取り戻したように見えた。
しかし、セラはいつまでも草花を運び続けた。
彼は、村の花屋が在庫を切らすほど買い占めた。それに飽き足らず、公園の花壇からも抜き去りはじめる。それを禁じられると川辺や土手に自生の花を求めた。
柩にはもちろん入り切らず、それを運ぶ馬車の荷台にも花々は納められていく。
教会へ柩を運ぶ時間になっても、セラは花集めを一向にやめようとはしなかった。彼の腕をキイルタが
黒髪の少女の鋭利な耳は、紅髪の少年の口から漏れ出た言葉を、
誕生日おめでとう。今日は塩漬け肉か。二番水も用意した方がいいな――嗚呼、彼の
【9-8】舟出 中
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あにさまをお願いね――。
キイルタはやむなく、力いっぱいセラの片耳を引っ張った。
両手から雑草が落ち、そのまま両膝をついて、彼はようやく止まった。
満杯の花とともに、柩は閉じられた。
「いまの俺の力では、この程度のことしかできない……」
埋葬される柩を前に、セラはすすり泣いた。
キイルタほか参列者が
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
今話での下船を余儀なくされたエイネ――その冥福を祈っていただけましたら、幸甚です。
船には、セラ・キイルタが残されました。その航跡を見守ってください。
【予 告】
次回、「もう1つの決意」お楽しみに。
長かった第9章も最終話を迎えます。
エイネのささやかな葬儀が終わった。
参列した人々は、目頭を押さえつつ散会していった。
しかし、キイルタは最後まで泣かなかった。
彼女は、エイネがずっと過ごしていた部屋に戻ると、ベッド周りから片付けていく。
鏡台の引き出しのなかから、小さな紙袋が出て来た。
キイルタ、あたしね、ダイアン先生に特別なお薬を処方してもらったの――。
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