【9-41】 もう1つの決意 《第9章 終》

【第9章 登場人物】

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 エイネのささやかな葬儀が終わった。


 参列した人々は、目頭を押さえつつ散会していった。


 生前の少女について、ある者は、天真爛漫てんしんらんまんさを思い起こし、ある者は、しっかり者の一面をしのんで。



 キイルタは最後まで泣かなかった。


 しかし、いつものように体を動かしていないと、悲しみの渦に飲み込まれてしまいそうになる。飲み込まれたら最後、涙が止まらなくなるどころか、起き上がれなくなるだろう。


 エイネがずっと過ごしてきた部屋に戻ると、彼女は喪服姿のままベッド周りから片付けていく。


 紅髪の少女が好きだった小説、よく手にしていた小さなスケッチブックに鉛筆……ほこりを払っては、それらを整えていく。



「?」

 鏡台の引き出しのなかから、小さな紙袋が出て来た。



 キイルタ、あたしね、ダイアン先生に特別なお薬を処方してもらったの――。

 

 相手のことが大好きになってしまうお薬なんですって――。


 ベッドの上では、エイネがいたずらっ子のように舌を出している。


【9-34】 惚れ薬

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「……」

 キイルタは灰色の瞳をうるませつつ、紙袋を手にした。



 キイルタも、このお薬が欲しいの――?

 

 いったい誰に使うつもりなのかしらぁ――。



「……ッ」

 エイネのを思い出すと、鼻をすすりながらも、赤面を禁じ得ない。


 もう、この部屋には誰もいないのだ――キイルタは自分に言い聞かせつつ、袋を開く。



「……?」

 紙袋のなかには、薬包紙は入っていなかった。


 

 代わりに、折りたたまれた小さな紙片が入っていた。


 キイルタはそれを摘まむと、指先で開く。



 そこには文字が書かれていた。












 こんなモノに頼るな。


 健闘を祈る。

 



 小さな文字ながら、ダイアン女医の筆跡であることは間違いなかった。各種薬の説明書きと同じ悪筆――もとい、クセ字であったからだ。



 ――恋愛こっちの方面では、やぶ医者だった。

 紙片をたたむと、キイルタはくすりと笑った。




 彼女は、ベッドに向き直った。あの日、セラに告げられなかったもう1つの決意を、少女に打ち明ける。


【9-27】2つの決意

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 エイネさま……ううん、エイネちゃん。


「あたし、陸軍幼年学校の編入試験を受けます」



 もう手は震えていなかった。父や祖父母、老執事や家政婦たちの笑顔も、脳裏に浮かばなかった。


【9-28】 呼び鈴

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 キイルタ、あにさまをお願いね――。


 ベッドの上のエイネは、満開の笑みを浮かべていた。





第9章 完

※第10章に続きます。



【作者からのお願い】

41話も続いた9章につきまして、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。


この先も「航跡」は続いていきます。


キイルタの恋を応援してくださる方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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セラ、キイルタの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回からは、第10章「首飾り」が始まります。


時間軸は再び帝国暦383年の夏へ。

炎天下、帝国軍右翼が壊滅し、帝国・ヴァナヘイムの戦場は、ひと段落を迎えています。


長らく、少年時代編が続いてしまったので、10章本編が始まる前に、レイス隊の誰かに、両国の戦い――セラとレディ・アトロンの奮闘――について、振り返りをさせようかな、とも考えています。


その後のフェイズは、ヴァナヘイム国へ。

総司令官・アルベルト=ミーミルは、王都ノーアトゥーンへ呼び戻されます。

そこで、「首飾り」の巡り合わせにより、1人の少女(?)と出会います――。


お楽しみに。

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