第10章 首飾り

【プレイバック?⑤】アシイン=ゴウラの小休止

【第8章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044

【イメージ図】イエロヴェリル平原の戦い

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139554877358639

【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 俺……私の名前は、アシイン=ゴウラと申し……。


 階級は、帝国陸軍少尉だ……です。


「……」

 ゴウラは、副長直伝のカンペを読み直す。紙片が小さく見えるのは、それを持つ両手が大きいからであろう。



 ここで1つ、咳払い。


 カンペを軍服――略装――の胸ポケットにしまう。



 俺の名前は、アシイン=ゴウラ。


 階級は、帝国陸軍少尉だ。


 レイス隊の先任少尉として、後輩たちをはじめ、下士官・兵たちの訓練について指導に当たっている。



 月日は、帝国暦383年の夏に差し掛かろうとしていた。


 帝国東征軍は、勝っていた。


 イエロべ……長ったらしい名前のとおり、広大な平原の各所でヴァナヘイム国軍を打ち破り、点在する諸都市を押さえながら、俺たちは北上していった。


 そして、ケルム……渓谷まで、ヴァナヘイム軍の奴らを追い込んだ。



 この平原の夏は、俺たちが体験したことのないほどの熱暑だった。


 敵さんもきっと暑いのだろう――谷底に守りを固めたまま、ちっとも出てこない。それを真に受けて、帝国軍各隊は平原に散らばっちまった。日影も飲水もないのだから、仕方がなかろう。


 そこを、見事にかれたというわけだ。


 敵司令官は、俺たちがバラバラになるのを待っていたのだ。時間を無駄にせぬよう、自軍には猛訓練を課しながら。



 帝国軍右翼は、各隊とも連携が取れず、まともな反撃もままならぬまま、各個撃破されちまった。


 ヴァナヘイム軍の奴らに完敗。


 俺たちは命からがら、後方の中軍に逃げ込んだ。


 この敗戦で、帝国の右翼各隊が受けた被害は、尋常ではなかった。軍司令も師団長も、指揮すべき将兵を見捨て、逃亡とんずらしちまったほどだ。


 それに、連隊長殿……。



 この先、俺たちは、敗残兵を集めた予備隊として、後方に留め置かれることになるらしい。と副長は、軍議の席に呼ばれて忙しく、俺がを担当するよう命じられたわけだ。



 今回の敗戦を振り返るにあたって、北の大陸での敗戦を思い出しちまった。


 当時、俺はまだ見習いだったんだが、その辺りから話そうかと思う。


 俺も、日課の筋トレやランニングに忙しいから、さっそく始めよう。



***



 フイン伯父さんの強い勧めもあり、俺は士官学校を卒業すると、レイス隊に所属することになった。


 伯父さんは、この隊のに昔から惚れ込んでおり、卒業後の進路希望書には、「レイス隊」としか書くことを許さなかった。


 もっとも、生家が潤沢な所領を有しているわけもなく、士官学校も落第すれすれの成績で卒業した俺に、所属先を選ぶ自由など与えられなかったわけだが。


 それにしても、士官学校卒業の身で、何が悲しくて、中隊に毛が生えた程度の部隊に所属しなきゃならんのか――。


 そういえば、伯父さん夫妻は、俺が難関の士官学校入学試験に合格した際も、すぐには信じてくれなかったな。



 あれこれ考え込むのは、すぐにやめにした。後ろ向きなのは、性に合わん。


 悩んでいる暇があったら、身体を動かそう。


 鍛錬は、日々のたゆまぬ努力が肝要である。




「レイス隊にようこそ」


「――ッ!!?」


 配属直後から鉄亜鈴アレイを振るっていた俺の前に、1人の颯爽さっそうと現れた。



 の名前は、キイルタ=トラフといった。


 当時、彼女の階級は少尉であり、この隊の先任――副長――を務めているとのことだった。見習い士官(准尉)の自分には、直属の上官に当たるわけだ。


 少尉殿は、蒼みがかったつややかな黒髪を、後頭部でまとめている。灰色の瞳は感情の起伏を示すことは少なく、犀利さいりな鼻筋ともども冷たさすら帯びていた。


 軍服の上着からは分かりにくいが、ふとした仕草で強調される胸部には、ドギマギしてしまい、俺はどうしても目をらしてしまう。



 何より、読者諸君に伝えられないのが至極しごく残念なのだが、彼女からは、なんとも言えぬ甘い香りがただよっているのだ。


※のちに、後輩・レクレナの分析によれば、身につけている香水トワレが、彼女の本来の匂いと相まって、至高しこうの香りが生まれているのだという。


 少尉殿との初対面の折、俺はその美しさに魅せられ、不覚にも手にしていた鉄亜鈴を足の上に落としちまった。


 そんなわけで、配属早々1週間、訓練に参加できないという、名誉の傷を負う羽目になったのである。




 レイス隊の隊長は、紅色の髪を持つ、背の高い男だった。


 その頭脳明晰ぶりは、フイン伯父さんからずっと聞かされていたものの、配属して3カ月、している姿をお目に掛かれたためしがない。


 どうやら、その力が発揮されるのは、有事に臨んだ場合のみらしい。


 この男は、暇さえあれば眠っている。着任の挨拶も、その軍靴のにする羽目になった。


 長椅子の上に横になり、両足を組み、両手を頭の後ろに置く――彼の不動のスタイルだ。


 伯父さんの屋敷に四六時中寝ている老猫がいたが、睡眠時間の長さは良い勝負になるのではないか。あれだけ寝ていれば、背も伸びることだろう。



 ところが、摩訶不思議、複雑怪奇、奇妙奇天烈――そんな寝坊助ねぼすけ隊長に対し、副長はどうやら慕情を抱いているようだ。


 俺は恋愛経験など無いに等しいが……隊長を相手にした際の彼女のふとした仕草や、隊長を見つめる灰色の瞳の色合いなどから、副長の感情にはすぐに気が付いちまった。


 彼女に振り向いてもらうには、いま少し筋肉を付けねばならんのだろう。



***



 失礼、話の途中だが、ちょっとだけ腕立て伏せをさせてくれ。





【作者からのお願い】

この先も「アシイン=ゴウラの小休止」は少しだけ続きます。


ああ、そんなこともありましたな、と第8章までの物語を思い出していただけた方は、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ゴウラたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【プレイバック?⑥】アシイン=ゴウラの小休止」お楽しみに。


さっそく、ゴウラ少尉による振り返りは脱線し、自身の初陣時代を語り始めます。


人選間違えたかな。

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