【プレイバック?⑥】アシイン=ゴウラの小休止

【第8章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429051123044

【世界地図】航跡の舞台※第9章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139556452952442

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 俺の初陣が決まった。

 

 379年の秋、帝国陸軍は壮大な遠征を企図し、発動させた。

 

 北伐軍を編成するや、海軍と連携し大海アロードを北上。同盟国・アンクラ王国へ上陸するや、そこから同国と連合軍を編成し、ステンカ王国相手にドンパチするのだという。


 東岸領各領域の中小領主から成る第18連隊に、俺たちレイス麾下きかも組み込まれることになったわけだ。


 ところが、初陣の相手が北大陸最強のステンカ王国と知られるや、士官学校同期の皆が開いてくれた壮行会は、葬式のように静まり返っちまった。



 ちなみに、大陸最強説は、以下のように相場が決まっている。


 東の大陸では、ブレギア。


 北の大陸では、ステンカ王国。



 、ステンカ王国軍は強かった。


 殺戮さつりくするために生まれて来たような連中だった。特に肉弾戦での迫力は、同じ人間とは思えぬ獰猛どうもうさを誇った。


 兵力で勝っていたはずの帝国軍は、各所で破られ、全面潰走かいそうの様相を呈してきた。


 第18連隊もレイス隊以外、守りの備えを怠ったこともあり、ほとんどが討ち果たされちまった。



 ステンカの荒くれたちが、間近に迫る――。


 ウゥーールアァァァーーーー!!!!!!


 北の民族特有の野太いときの声は、大地を震わせ、まばらに生える針葉樹もろとも、俺たち敗残兵を圧倒した。


 動かなくなった帝国兵がそこらじゅうに転がっている。


 昨日、冗談を交わした下士官もむくろと化していた。


 怖かった。


 次は、俺があのなかの1人になるかもしれない。



 こんな時に、俺の脳裏に浮かんだのは、故郷の両親でも伯父さんでもなく、少尉(副長)殿だった。


 末期の際にまで、憧れの女性を思い浮かべるとは、呆れられるだろうが、案外そんなものなのかもしれない。

 

 ――副長殿を守らねば。


 鍛え上げたこの身体が、弾除けにでもなれば本望だ――と、格好よく覚悟は決まらないもので。


 付近に砲弾が落下すれば全身が震え、頭上を銃弾が切り裂くだけで、イチモツが縮んだ。


 それでも、身体を起こし、彼女を探そうとすると、片腕をぐいと抑え込まれた。


 形の綺麗な爪が食い込み、軍服越しでも痛い。袖にめり込んだ爪から、相手の腕、肩と視線をさかのぼらせると……あにはからん、副長殿ではないか。


 力強い握力が、いま起き上がったら貴様は死ぬぞ、と物語っていた。


 彼女は、初陣の俺をずっと気にかけてくれていたのだろうか。



 それにしても、地に伏せライフル銃を構える副長殿は、優美ですらあった。


 直後、見惚れていた外見からは想像もつかないような彼女の射撃の腕前を目の当たりにする。


 ステンカ兵たちは、寸分すんぶんの狂いもなく眉間を撃たれ、首を射抜かれ、心の臓を狙撃され、次々と倒れていく。


 そうだった。初陣の緊張や敗戦の衝撃で忘れていたが、彼女の射撃の腕は、隊内一どころか、帝国トップクラスだった。


 訓練でも目標を外すことがなく、士官学校の教官よりも技術が上であることは間違いない。


 そんな彼女が、前方に向けて形の良いあごを振る。遠眼鏡とおめがねの先ばかり気にしとらんで、お前も撃て、ということだろう。




 もう何波目か分からぬステンカ王国軍の襲来をやり過ごすと、ようやく俺たちはひと息つくことができた。


 恐る恐る、周囲を見渡すと、既に副長殿はその場に居なかった。


「……」


 彼女は、軍服に付いた泥もそのままに、後方の一点に駆け寄っていた。

 

 トラフ副長が問いかける先では、仰向けのまま、上半身を土砂で覆われた死体……ではなく、レイス隊長がいた。


 先ほど、何度となく近くに砲弾が落下した。その際に巻き上げられた土塊つちくれが、を決め込んでいた隊長の胸部から上に降り注いだのだろう。


【プレイバック?⑤】アシイン=ゴウラの小休止

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139557161287811



 上半身が埋まりながらも、両足は組んだまま寝ているのは、さすが……なのだろうか。



 副長殿は、隊長殿の両足を掴んで、土中から引っこ抜かんとしている。


 そうした2人の様子を眺めていると、ステンカ王国軍が退いた荒野へ放置された感が否めなかった。敵味方数多の死体とともに。


「……」

 俺の腕には、彼女の爪による痛みが残っていた。



***



 夕陽がまぶしくてたまらん。


 失礼、話の途中だが、天幕のブラインドを下げさせてもらう。


 同時に、ちょっとだけ腹筋をさせてくれ。






【作者からのお願い】

この先も「アシイン=ゴウラの小休止」はあと少しだけ続きます。


数年前、北の大陸で、このような戦闘が行われていたことに興味を持ってくださった方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ゴウラたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【プレイバック?⑦】アシイン=ゴウラの小休止」お楽しみに。


筋肉だるまよ、まだ昔語りを続けるのか。


誰か、彼の昔語りについて、方向転舵を試みてくれい。

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