【9-28】 呼び鈴
【第9章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429200791009
【世界地図】航跡の舞台※第9章 修正
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139556452952442
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残暑はいつまでも続いていた。だが、蝉の声種は変わり、一定のリズムが晩夏を奏でている。
数日前、エイネは激しく咳き込むとともに吐血した。化膿した傷口から肺病を併発したようだった。
紅毛の少年と黒毛の少女は、病身の少女を帝都の病院に連れて行く計画を断念せざるをえなくなった。
この症状では、長期間の船旅などとても耐えられない。その前に乗船時の検閲許可が下りないだろう。
――すぐにでも帝国本土に連れて行くべきだった。
エイネのうめき声を耳にするたびに、キイルタは蒼みがかった黒髪を力強くかきむしった。
――外聞を恐れたばかりに、取り返しのつかない事態になってしまった。
実家がブリクリウ一派から
【9-27】2つの決意
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428018200650
現領主様・ブリクリウ家は、かつて前領主様・レイス家を
先の第八皇子による内乱後、内務省第1課長・ブリクリウ=ターンは、帝国東岸領の実質的な支配者となった。
同派閥による「貴族潰し」は、いよいよ
キイルタの周りでも、東都の女学校でクラスメイトの1人が一族離散させられている。彼女は夏休みを前にして、遠縁を頼り学園から姿を消した。
いまから3年ほど前のことである。
前領主様の亡骸を、レイス家とは無縁なはずの宗派墓地に埋葬しているあいだ、幼女キイルタは涙が止まらなかった。
いつもトラフ家を気にかけてくださるなど、お優しかった前領主様が亡くなった。もう、笑顔を浮かべて頭を撫でてくださることはない――そのことが悲しかった。
しかし、それ以上に、たくさんの所領を持ち、大きなお屋敷に住んでいた前領主様が、すべてを失い、あれほど無残な最期を迎えられたのが、怖くて仕方がなかった。
前領主様の病み衰えた御遺体をトラフは直視できなかった。
明日は我が身だ。いつ父・ロナンが同じ
そのような事態に陥ったとき、己はどう振る舞えばいいのか、キイルタは思いを巡らすことすら出来なかった。
その点、セラは一向にめげる様子がなかった。
財産、地位そして親まで失いながら、どうしてこの幼馴染は、泰然としていられるのだろうか。同じ子どものはずなのに。
葬儀の直後、レイス家復興を誓った彼の勇姿は、まぶたの裏に焼き付いたままである。実に堂々とした様子は、涙乾かぬキイルタの灰色の瞳に光をもたらしたほどだった。
【9-7】舟出 上https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427962899826
しかし、その後も、レイス家との交流を堂々とやってのけたいと思うたびに、父・ロナンや祖父母、それに老執事や家政婦たちの笑顔が、脳裏に浮かんでは消えた。
すると、レイス家への想いも腰が砕けてしまうのだった。旧領主・レイス家との繋がりが、現領主・ブリクリウ一派に露見したとき、生家・トラフ家が被るであろう不利益を、少女はひたすら恐れてきた。
何より、キイルタは長ずるにつれ、前領主様のお心遣いが分かるようになってきている。
トラフ家は、あれほどお世話になり、尽くしてきた前領主様と突然仲違いし、よりにもよって、狐面の現領主様に
あの時の前領主様と実父の
前領主様は、トラフ家を守るために、ひと芝居打ってくださったのだ。それに応じざるを得なかった実父の悲哀は、いかばかりであったろう。
そうしたなか、自分が軽々にレイス家を支援する姿勢を示しては――現領主様に
沈鬱とした室内の空気をつんざくように、館の玄関先で呼び鈴が鳴った。
しかし、木製の扉はゴンという物音と共に、抵抗を覚えた。
キイルタは、わずかに首をかしげる。
――ゴン?
玄関先には、1人の少女が両手で鼻を押さえ、うずくまっていた。どうやら扉にぶつけたらしい。
「どちら様ですか……鼻、大丈夫ですか」
「……ワシの名前は、ダイアン=キェーフトだ」
少女はタレ目の端に涙を浮かべ、アトロンのとっつぁんから紹介された医者だと付け足す。
紹介状が入っているのだろう、銀色の通信筒を差し出しながら。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
突然現れた医者に驚かれた方、
誰でもいいからエイネを救って欲しいと思っている方、
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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「最年少オラヴ」お楽しみに。
「帝国史上最年少のオラヴ様……」
キイルタは、玄関先に立つ短身ジト目の少女(少なくともひと回りは年上のはずだが)を見つめる。
しかし、背丈は14歳のキイルタよりもひと回り小さく、白衣の裾は床に引きずっていた。何より髪は
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